最初にその声に、その音色に興味を持ったということが、自分にとって全く無かったことだと気が付くべきだったのに、それに気が付けなかった自分の愚かさに時々どうしようも無くなる。
元々魔法は好きだったので、別に何に対しても興味が持てないという訳では無かった。
けれど、誰かをここまで近くに置いて平気だった時点で、きちんと気が付くべき事態だったのかもしれない。
籠から逃げてしまった小鳥は普通は戻らないこと位、俺でも知っている。
それなのに小夜啼鳥は戻ってきてくれたのだ。
「小夜啼鳥……。」
触れた部分が少しだけピンク色に色づく様を見るのが好きだ。
何故?と聞いたとき小夜啼鳥は困った様に笑って、それから少し考える様な素振りを見せた後いつもよりも小さな声で「王様の事が好きだからかな。」と答えた。
よく意味が分からなかったけれど、とても嬉しかったことだけは事実だ。
小夜啼鳥は洗い立てのシーツと、温めた牛乳と、それから小麦で作られたパンが好きだ。多分、白い色が好きなんだと思って聞いてみたら、好きな色は黒だと言われた。
小鳥の事はよく分からない。
「小夜啼鳥、唄って?」
だけど、この瞬間が一番幸せだってことは俺にも分かる。
小夜啼鳥は微笑むとベッドに腰を掛けながら唄いはじめる。
もうベッドの横に、小夜啼鳥専用の椅子は置いていない。
一緒のベッドで眠るのにわざわざ椅子を置いておく必要はない。
彼の音色を聞くと、それだけで心に色が付いていく。
唄っている曲のタイトルすら知らないけれど、流行歌と童謡が多いと小夜啼鳥は言っていた。
どの唄もどの言葉もどの音も、小夜啼鳥の口から聞こえるものは、すべてが好きだ。
今はもう何ものにも代えがたいけれど、小夜啼鳥は時々不安げにこちらを見る。
少し前に、籠の扉を開けてしまったのは、他でもない俺自身だ。
だから、小夜啼鳥が不安に思うのも当たり前だから、何も言えない。
小夜啼鳥も何も聞かない。
ただ寄り添って、穏やかな声で囁くように唄う小夜啼鳥は、あの時の話は全くしない。
言い訳すらさせてもらえないかもしれない事に気が付いてはいた。
ひたすら謝り続けたいと願ったこともあったけれど、努めて触れないようにしている小鳥に対して、切り出すことはできなかった。
「ああ、新しい歌を覚えたのか。」
俺が言うと、小夜啼鳥はふわりと微笑む。
今はもう、何故歌だけでいいと思っていた時期があったのかも思い出せない位、小夜啼鳥の何もかもが好きだ。
それをどう伝えたらいいのか分からず、それでもこみ上げる気持ちに「愛してる。」と呟くと、小夜啼鳥の歌声が一瞬止まってしまう。
「俺もです。」
消えかけそうな声でそう返した後、小夜啼鳥は再び唄いはじめた。
了
お題:王様視点