きもち

今日の授業が全部終わって、王様が迎えに来る。
合同以外の授業は別々に受けているため、わざわざ待っていなくてもいいのに、彼は必ず俺の事を迎えに来ていた。
自分の授業があるはずなのにいつも普通に教室の外で待っている。

「小夜啼鳥、帰ろうか。」

いつもの様に王様が言う。
それに頷くと、王様は歩き始めた。

帰り途中で、神子とその伴侶がキスをしているのを見た。
人前でそんなことをという気持ちが無かった訳じゃないけれど、視線が逸らせなかった。
実際、周りの人たちも彼ら二人を見ているみたいだった。

ぼんやりと眺めてしまいながら、横にいるはずの王様の事を思い出して慌てて彼の顔を見る。
王様はまるで興味なさげにしていた。一時期パートナーだったのか無かったかの様に王様は神子に興味を示すことは無い。

向こうも気まずいのか、わざわざ声をかけてくることもないし、居ないも同然としてお互いに学園生活を送っている様に見えた。

だから、わざわざその事に触れようとは思わない。

「行きましょうか?」

俺が王様に言うと、王様は不思議そうにこちらを見る。あまりにも神子に興味の無い様子なので、逆にこちらが不思議に思ってしまう。

けれど、それ以上考えることはできなかった。

唇を離した神子のパートナーが、何故か一直線にこちらに向かってきてしまったからだ。
慌てて後を追いかけた来た神子とばっちりと目があってしまう。

気まずくて目をそらすと、彼のパートナーは満面の笑みを浮かべて「なんでいつもすぐに帰っちゃうんだよ。」と話しかけた。

そこで初めてこの神族の男が王様と同じクラスなのだということに気が付いた。
考えてみれば当たり前だ。
成績別に分けられているクラスで、留学生とはいえ神族の男が王様と別のクラスになることはあり得ないのだ。

多分俺の知らないところで何度も王様とこの男は会話を交わしているのだろう。

「“僕の神子”も君とのことは気にしてないし、僕が学園に来る前の話だろう?
僕は君と友達になりたいし、君のパートナーも紹介して欲しいな。」

明るい声だった。少なくとも俺と神子の気まずさには全く釣り合わない明るさに思えた。思わずもう一度、神子を見ると彼はうつ向いている。

これがいつもの事なのか分からないけれど、少なくとも神子にとっては歓迎しない事なのだろうということが分かった。
俺にも分かるのに何故恋人であるこの人には分からないのだろう。

「初めまして。君も歌を唄うんだってね。」

何故か俺に話かけられる。
それから王様の顔をみて親し気に言う。

「“僕の神子”の歌声を君も聞いたんでしょ。
なら、この子の歌も聞かせてもらってもいいだろう?」

聞いても何にもならない。
別に俺は歌が上手い訳でも、特別な歌声がある訳でもないのだ。

親し気に差し出された手は挨拶の印なのだろう。
けれどその手は、王様が振り払った。

「小鳥が俺の為以外に、歌う訳が無いだろ。」

始め王様が何に対してそんなに苛烈な反応を示しているのか理解できなかった。
そんな風なはっきりとした言い方自体、彼はほとんどすることは無かったのだ。

事実目の前の二人も驚いている様に見えた。

「やめようよ。王様だって困ってる。」

神子が神族の男に声をかけた。
明らかに困惑している神子と、すぐにあっけらかんとした表情に戻った神族。あまりに対照的で、思っていた恋人像と違いすぎて驚く。

けれど、彼が歌うなというのであれば歌うことは無い。
別に誰かに聞かせられるような何かでは無いのだ。

それに気が立っているこの人を見るのが嫌で帰りましょうと声をかけるつもりで唇を動かした。

「駄目だよ。」

王様が俺の口元を自分の手のひらで覆った。
思わず王様の顔を見ると表情は硬い。けれど俺の視線に気が付いたのかいつもみたいに表情が緩む。

「俺以外に求められても、声を聞かせちゃだ駄目だよ。」

言い含められるように言われる。彼は相変わらず何かを勘違いしているのかもしれないと思うけれど、彼がそれを望むならと頷いた。

王様は俺の口をふさいでいた手をはなす。
それから、満足げに微笑むと目の前の二人を無視して俺を抱き上げる。

「手乗りっていっても案外難しいものだな。」

ぽつりとそんなことを言う王様に、やっぱり何か勘違いしているんじゃないかと思った。

王様は俺を担いだまま二人の部屋まで戻ってしまった。
その間俺は一言もしゃべらなかったし王様は元々それほど口数が多い方ではない。

そのまま王様のベッドまで一直線に進んでそこに降ろされる。

それの意味が分からないほど無垢ではない。
けれど、嬉しいと頬を赤らめて伝えられるほど素直にもなれなかった。

「小夜啼鳥は俺のものだから。」

だから、他の人の為に歌っては駄目だ。そう言いながら王様は俺に口付けをした。
当たり前の様にぬるりと口内に入ってくる舌は歯列を撫でた後、俺の舌に絡まる。

まるで先ほどの二人のキスの記憶を上書きするように貪られて、息も上手くできない。
王様が唇を離した時にはゼイゼイと肩で息をしてしまっていた。

自分に覆いかぶさって、器用にシャツを脱がし始めている王様を見て思わず少し前の言葉を思い出す。

「それって、独占欲ってやつですか?」

普段であれば思ったとしても口に出さなかったであろう言葉が音になって出てしまう。
王様の手が一瞬止まって、ああ、失敗したと思った。

けれど、無視されるかため息をつかれるかだと信じていた。

「そうだね。そうかもしれないな。」

返ってきた言葉が肯定で、驚く。

愛されている。という実感はあった。
だけど、それでもこんな風に言われるとは思っていなかったのだ。

「ああうん。そうだ。他の人間には絶対に渡したくはないな。」

止まっていた手が最後のボタンをはずした。

王様はいつも俺の体中に唇を落とす。
そのくすぐったい様な行為に馬鹿みたいに興奮して声が出そうになる。

脇腹に口付けされてそのまま舐められる。

自分の口から出るはしたない嬌声が嫌だった。
思わず歯を食いしばると、王様に唇を撫でられる。

「小夜啼鳥 、声をきかせてくれないか?」

歌を唄うこととは違う。
いつだって、王様が俺を男だと改めて認識してしまうのが怖いのだ。

王様が同性愛者だと聞いたことは無い。
だから、盛り上がっている空気が、それを思い出して萎えてしまうんじゃないかと思うと声はなるべく聞かせたくは無かった。

けれど、王様は困ったみたいに笑ってから、彼の起立を俺の中に突き立てた。
喉の奥で悲鳴みたいな喘ぎ声がしたけれど、自分の両の手で口をふさいだのでそれほど大きな声は出なかった。

「いっぱい、啼いて?」

王様はそう言うと、自分の手で俺の手をベッドに押し付けた。

はあはあという王様の吐息が耳元に吹きかかってそれだけで感じてしまう。

がつっと音がするくらい穿たれて、思わずのけぞる。悲鳴のような嬌声をあげてしまってその声にさらに興奮している自分が嫌だ。

「いい声。もっと沢山啼せてあげるから。」

男のくぐもった声のそれなのに、快楽の涙で滲んだ視界の真ん中にある王様の顔は満足げな表情だ。

「気持ちいい?」

王様に聞かれて肯定も否定もできない。

王様返事が無いことを気にした様子も無く。
中をかき混ぜる。

「中も、気持ちいってしてるね。」

口からもれてしまうはしたない嬌声と、王様を受け入れて歓喜して吸い付いてしまう内側も、何もかも分かられてしまっている。

ぶわりと涙がにじむ。

「小鳥は本当にかわいいな。」

吐息交じりに言われて、思わず「好き」と意味のある言葉を出してしまう。
王様の俺を縫い付ける手に力が込められた気がした。

滅茶苦茶に抽挿を繰り返されて、目の前がチカチカするみたいな快感にただひたすら喘がされる。

王様が中で吐精したのを感じたのとほぼ同時に自分も出してしまっているのが分かった。

「王様……。」

自分の声がほぼかれかけていて思わず笑ってしまいそうになる。
声がかれるまで抱かれていたという事実をどう受け止めていいのか分からない。

けれど王様は相変わらずニコニコと上機嫌でこちらを見ている。

「ああ、今日はもう歌えないかもしれないな。」

それなのに、俺の髪の毛を撫でる手は優しい。
眠くなってしまって、目を閉じかけると「おやすみ、小夜啼鳥。」と囁かれた。

その声は自分の声なんかよりよっぽと蠱惑的で先ほどまでの行為を思い出して、ぞくりとしてしまった。
けれど、睡魔には勝てず目を閉じると、密やかにいつも俺の歌っている王様お気に入りの曲の鼻歌が聞こえた気がした。

お題:王様が独占欲を抱く話(R18)