小夜啼鳥は彼の為に唄う

あれから、王様はどこに行くにも俺を連れていく様になった。
元々は共同で行わないといけない授業以外は夜寝る前だけだったのだが、今ではどこに行くのも離れたがらない上に寝るときも抱きこまれて王様の腕の中で眠っている。

愛しているという言葉の意味を実感できたのはつい最近の事だ。

王様は周りから遠巻きにされている視線に気が付いているのかいないのか、特に動じた様子は無かった。

神子がだめだったから俺。そう陰口を叩かれていることも知っている。

「小夜啼鳥どうした?」

王様に話しかけられ思わず彼の事を見つめてしまった。
あの日、忍び込んで歌を唄った日の憔悴しきった顔ではない。

それが嬉しくて、思わず鼻歌を歌ってしまう。
王様はふわりと笑うと俺の髪の毛をそっと撫で項をなぞった。

くすぐったさに思わず体を震わせると、王様が吐息だけで笑った気配がした。きっと王様は恋人に捨てられた哀れな人扱いを受けて今立場的には辛い状態なのだろう。

それなのに、こうしてあの人の瞳に自分が写っていることが幸せでたまらなかった。

実戦の練習試合を申し込まれたのは二人で昼ご飯を食べているときだった。

「小鳥はやっぱりパンがすきなんだな。」

俺は鳥でも何でもないのに王様は時々そういう。冗談の様なものなのだろう。
そんな話をしているときに、元々優秀だと聞いていた人間に実戦訓練を突然申し込まれたのだ。
それはもはや賭ける大義のない決闘の様なものだ。

王様は興味なさそうに再び食事をつづける。

苛立ったその人は王様に掴みかかる。
王様はそれで漸くその人を見た。

王様は一時調子を崩していた。その後は、色々な物への興味が薄くなってしまったみたいになっていて、その分俺を構い倒している。
だから、それが気に入らないのか、そうでは無くて実力が無くなったのであれば、それをはっきりとさせておきたいのだろう。

「そんな男を身代わりにして現実逃避もいい加減にしろ。」

自分に関係の無い人間の言葉で、王様に言われた訳では無い。そう思うのに、やっぱり直接言われるのは堪えた。

王様が突然席を立つ。
驚いて見上げたときに見えた表情は恐ろしい位無表情で、思わず唾を飲み込んだ。

「いいよ、対戦しようか。今すぐ――」

審判の準備よろしく。そういうと王様は俺の方を向いて笑顔を浮かべた。

「すぐ終わらせるから、終ったらゆっくり食事にしよう。」
「じゃあ、サンドイッチしまいますね。」

応援してますとも、必ず勝つと思ってますとも言えないまま、王様の後に続いて競技場に向かって歩いた。

競技場では王様から少し離れたところで見守る。

王様はぼんやりと立っているだけだ。
それから、興味がなさそうに王様は右手を上げた。
綺麗に魔法が発動する。

明らかに以前より、威力が増している様に見えた。
大して能力の無い俺でもそう思うのだ。
対戦相手も、それから、審判でさえも目を見開いて呆然としている。

神子と付き合っていた時でさえ、こんな圧倒的な力の差は無かった様に思う。
元々余裕で勝っていた風に見えたが、そんなものとは次元が違う。

神子と別れた後、一人で研鑚を積んだという事だろうか。
俺を常に傍らに置いて以降そんな様子は無かった。

「すごいです。何でこんな……。」

俺が思わずそういうと、戦意を喪失して跪いた対戦相手をチラリと見た後、王様はこちらへ来た。

「小夜啼鳥が唄ってくれるからだよ。」

王様が言った。そんな訳がないのだ。
俺の歌は魔法をのせている訳でもないし、ましてや神子の様に特別な力がある訳では無い。
単なる歌でしかないのだ。

王様が俺を抱きあげる。

「これからも俺の為に唄って。」
「……はい。」

それでもこの人が俺の事を必要としてくれている限り、この人の元を離れることは無いのだろうと思った。

お題:二人が少しでも幸せにしている様子。

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