――いつかの話
バラをあげよう。
そう言われて渡されたものは、想像していたものとは少し違っていた。
手のひらの上に置かれたものは小さな石のようなものでそれをしげしげと見る。
よく考えてみればせんせいは、特に花の入っていそうな鞄等は持っていなかった。
それにしてもバラというからもっと違うものだと思っていたのだ。
「硫酸カルシウムだよ。砂漠で且つてオアシスだったところからとれるんだ。砂漠のバラと呼ばれている。」
せんせいは笑顔を浮かべた。
もう一度、手の上の石を見て見ると筋の様になった結晶が薔薇の花弁のようだった。
「綺麗だろう?水に弱いから濡らさない様にね。」
先生はそういった。
きっと誰か知り合いにでも、恋人に薔薇の一つも贈ってやらないととでも言われたのだろう。
乳白色のその石はぼくの中でとても大切なものに思えた。
そして、せんせいのこういう風に少しずれたところが愛おしかった。
「ありがとうございます。大切にしますね。」
帰りに何かケースを買って帰ろう。
駅ビルに行けば何かきっとあるだろう。
照れた様に笑うせんせいを見て心の中の方がホカホカした。
END