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最初に木戸理一という男を認識した瞬間の事を花島一総は今でもよく覚えている。
もうその時、一総は自分自身が所謂化け物であるという自覚はあったし、それが先祖返りによる避けられない物だという事も理解していた。
だから、全寮制の異能の為の学校でその男を見た時には少しだけ驚いたのだ。
まるで異能を持っていない振る舞いにも、それから花島の能力として見て取れるその男の筋肉の質にも驚かされる。
今までここまで均整の取れた体を見たことは無い。
思わず見とれていると、その男がクラスメイトらしい別の人間に小突かれた。
ふつうは怒るところだろうに、へらへらと笑っている男に自分が勝手に怒りにも似た感情を覚えている。
圧倒的な力を誇示することもせず、やり返す事もせずその男、木戸理一は笑っていた。
どう考えても何度確認しても、そんな事をしなくてもいい位強い筈だ。少なくとも体はそういう風になっている。
初めてみた理一の印象はそんな風だった。
だから、確認してみたいと思った。
それが最初だ。
その機会は割と簡単に手に入った。
雑用だのなんだの、面倒そうなことを二つ返事で受けてしまう癖があるらしい理一は図書館だの花壇だの校内清掃だの、その辺に良く出没していたし、かなり遅くまで毎日学校に居残っていた。
だから、近づいて声をかけることも容易に出来た。
御仁の一族だと知っていた。
花島の術がかかる一族だと知っていた。
だから、凋落させることを前提に近づいたのに、それが失敗したことにはすぐに気が付いた。
「生徒会長さんっすよね。どうしかしました?」
理一は大荷物を持ったまま普通に話かけられて驚く。
まるで、そうまるで俺を普通の人間だと認識しているみたいな話し方をされて少し驚いて、とても嬉しかったのだ。
「なあ、俺に抱かれてみる気はないか?」
「は?あんた何言ってるんすか?」
「あれ?俺が花島だって知らないのか?」
「はなしま……?ああ!いやだって、なんで俺?」
それはこちらが知りたい。一総はそのために声をかけているのだ。
それなのに理一は何を勘違いしたのか
「花島って大変なんすね。そんな誰にでも声をかけなきゃいけなくて。」
そんな事を言う。それからぺこりと一礼すると大荷物を持って廊下を歩き始めた。
一総は追いすがる為の言葉を持ってはいなかった。
怪物だったから、花島の術がそして自分の怪物としての異能が効かない相手とどう伝え合えばいいのか分からなかった。