愛を囁く1

憧れのミヤさんと2回ほどコラボさせてもらった後、ミヤさんから一通のメールが届いた。
それは今度音楽スタジオを借りて一緒に録音しないか、というお誘いだった。
2回目のコラボの時に、アコギバージョンの話を少ししていて、ミヤさんはギターも弾けるということで、折角だから、リアルで会って合わせてみないかという事になった。

スタジオといってもインディーズやアマチュアのバンドの練習に使われている所でそんなに敷居も高く無いらしい。

生ミヤさんに会えるなんて!!一ファンとしてこんな嬉しい事は無いけれど、実際に会ってがっかりされないか、それがとても心配だった。
でも、直ぐに思い直した。
そもそも、普通男同士でがっかりするもくそも無いんだよな。
俺がゲイだからすぐにそっちに結びつけてしまうだけで、ミヤさんからしてみたら俺なんて男という時点で対象外もいいところだ。
普通の共通の趣味の知り合いに求める事なんて、空気を読む事と、あまりに不潔すぎる身なりをしていない事位だ。
ありもしない変な期待を持っているのは俺だけな訳で、ミヤさんはただ純粋に一緒に音録りをしようと言ってくれているだけだ。

実際に会って、眼中に無いというのをまざまざと感じさせられるのは辛いかもしれないけど、それでも折角ミヤさんが誘ってくれたのだからと、OKの返事を打った。

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ミヤさんと約束をした日曜日、俺はスタジオのある最寄りの駅で待ち合わせていた。
まるで、デートの待ち合わせのようにそわそわしてしまう。(実際、誰かとお付き合いなるものをした事が無いので、デートの待ち合わせがどんなものかはよく分からないのだけど……。)

「済みません、ヴィーさんですか?」

俺にそう声をかけてきたのは間違いなくミヤさんの声だった。
声をかけてくれた人の方を向くとそこには一人の青年が立っていた。

チェスターコートを着こなし、ズボンはスラリと長い脚にフィットしている。
手にはギターケースとパソコンが入っているだろうカバンを持っていて、やはりこの人がミヤさんだと確信する。
顔は、確かに彫りが深いとか、鼻が高いとかそういうことは無いけど、薄い唇に男の色気がある目もと、フツメンというにはかっこ良すぎるその姿に見惚れてしまう。

「あ、あの、はい、あの…。」

何とか口を開くが、意味不明になってしまった。
ミヤさんは一瞬目を見開いたが、直ぐに笑顔になって
「大丈夫、緊張しないで。」と言ってくれた。
どうやら、声で俺だと分かってくれたらしい。

「ヴィー、予約は15時からだからそろそろ行こうか?」

なんで、適当にヴィーなんて名前にしてしまったんだろう。
こうやって、面と向かって言われるとすごく恥ずかしい。
実際に顔も真っ赤になっていたらしく、ミヤさんに心配されてしまった。

歩きながら、歌い手名が恥ずかしかったと言ったら、ミヤさんは

「俺のは、本名みたいなもんだからなあ。」

と言った。
どういうことか聞いてもいいかな?距離無しだと思われてしまうだろうか?
俺がオロオロしていると、ミヤさんはふっと笑って口を開いた。

「宮本圭吾っていうんだよ本名。」
「え!?俺に教えちゃっていいんですか?」

驚きのあまり変な声が出てしまった。

「うーん。別に悪用しないだろ?それにスタジオの申込書は勿論本名だし、どうせその時分かっちゃう事だから。」

事もなげにミヤさんは言った。

「あっ、そうか。えっと、俺は立野樹と言います。」
「へえ、じゃあ、樹って呼んでもいい?」

ミヤさんの重低音に囁かれ、俺はコクリと頷いた。

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スタジオに入るとミヤさんは手際よく機材の準備をしていた。
俺も何か手伝える事と思い聞いてみたけど、大丈夫だよとミヤさんが一人ですべてやってしまった。
役立たずすぎて、少しへこんだ。

「そういえばさ、樹ってどんなマイク使ってる?」
「え?ふつーに電気屋で買ってきたやつですけど……。」
「いくらくらいのやつ?」
「えっと、確か1500円位だったかなぁ?」

急にマイクについて聞かれたので正直に答えた。
するとミヤさんは

「ちょっと歌録音するのには心もとない感じかな?俺、家にマイク余ってるから、今度送ってあげるよ。」

と気を使われてしまった。

本当にミヤさんは優しすぎる。

これを恋にしちゃ絶対だめだ、自分にそう言い聞かせるけどそれは、結局それはこの後すぐに無駄になった。

「じゃあ、軽く合わせてみようか。」

椅子に座って、アコギを持ちながらミヤさんが言う。
ミヤさんのギターに合わせながら、歌う。
俺の声に、ミヤさんの甘く低い声が重なった。

生声やばい、本当にやばい。
ミヤさんの声に頭の中が一杯になる。

ミヤさんの歌にクラクラしながらも何とか歌いきった。
ドクドクと自分の心臓の音がうるさい。

「どうだった?」

ミヤさんに聞かれたので思わず

「ミヤさんかっこ良すぎです。」

と本音を言ってしまった。
直ぐに、ミヤさんの感想ではなく、曲としてどこをどう歌うかのことだと気付くが後の祭りだ。
真っ赤になって俺が慌てていると。
ミヤさんは声を出して笑った。

笑い声までかっこいいなんて反則だ。

ただ、ミヤさんが笑ってくれたおかげで気まずい雰囲気にならなくて良かった。

その後もミヤさんのイケメンボイスに悩殺されまくりながらも曲を録音して、一応念のために、ソロで歌った分も録音した。

ミヤさんが場を和ませてくれたおかげで緊張もあまりなく、他の予約も無かったことから延長して、人気ボカロ曲を歌ったりもした。
ミヤさんもイケメンボイスを惜しげなく披露してくれて、今日を一生の思い出にしようと思った。

スタジオ代も、俺は社会人だからとミヤさんの方が多く払ってくれて、夕食も一緒に近くのファミレスで食べた。
ニヤニヤ動画の話題等、話も途切れる事も無く本当に楽しかった。

帰り際、ミヤさんが

「また、一緒に歌おう。」

そう言ってくれて、ボロリと涙がこぼれた。
ミヤさんは慌ててハンカチを差し出してくれた。

「何か、うれしすぎて感情が高ぶっちゃって。」

俺がそう言うと困ったような笑顔を浮かべて

「嫌なのかと心配になったぞ。絶対またコラボするからな。」

と言った。

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社交辞令で言ったと思っていたマイクは、ほどなくして送られてきた。
宅配便の箱を開けるとそこに入っていたのは、いかにも高そうなヘッドホンとマイクで、それ以外にも「喉を傷めるといけないので、プレゼント」というメッセージと共にマフラーと綺麗にラッピングされた飴が入っていた。
グリーンのマフラーを握りしめてドキドキする心臓を鎮めようとするけど無理みたいだ。
暫く、一人で歌を録音するときでも、ミヤさんが使っていたヘッドホンとマイクということでドキドキが止まらなかったということは俺だけの秘密だ。