愛の言葉2

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零細ゲームメーカーに勤めて、サウンドを担当している。
小さいゲームメーカーなのでサウンド担当と言っても、他に色々やらされている訳だけれども、何とか音楽に関わる仕事をしているだけで俺はラッキーな方だろう。
入社2年目、ようやく仕事にも慣れ、余裕が出てきたころ、ネットの動画サイトに曲を投稿し始めた。
どうしても、仕事では自分の自由に曲を作る訳には行かない。
ストレス発散と趣味を兼ねて定期的に、ボカロ曲をアップしていた。

男性声のボカロソフトはどうしても少ない。
イメージした声質のソフトがなく、この際弄りまくって、ボカロの声質変えてしまうかと思ったが、邪道な気がして、仕方がなく自分の声を録音してアップしてみた。
それなりに、自分が歌った曲も閲覧があり、それ以降、歌ってみたのカテゴリにもぽつぽつと投稿するようになった。
今ではニヤニヤ大百科に俺のP名兼、歌い手名のミヤが載っている程度の人気にはなっている。

ミヤという名前は本名の宮本 圭吾(みやもと けいご)から取っている。
本名からということで、身バレの事も考えたが、そもそも、顔出しをするつもりはないし、まあ、いいかと思っている。
まあ、俺のようなフツメンがニヤニヤ大集会等に出たとしても盛り下がるだけだろう。

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何か新しい曲でも作るか、と思いながら、BGMにしている、歌い手詰め合わせの動画を聞く。
たまには、ユニットで歌っている感じの曲もいいなと思う。
その時、彼の歌っている曲が流れ始めた。
以前、俺の歌ったラブソングのアンサーソングとして俺が作った曲だ。
その曲は俺が歌った曲のアンサーということで女性の気持ち風に作って、ボカロも女の子キャラの物を使ってアップした。
歌ってみたでも、女性が歌ったものが圧倒的大多数で、男性歌い手のものは少ないような気がする。
その声を聞いて、正に俺は自分の中にストンと曲が降ってくるという経験をした。
この声の持ち主のために曲を作りたい。
強くそう思った俺は、一気に曲を書き上げた。

にしても、男にしては少し中世的でそれでいてハスキーな不思議な声をしている。
詰め合わせの目録から探し出した、V(ヴィー)という歌い手の曲を聴きながら思う。

格好をつけるのをやめて正直に言おう、俺はその声に欲情した。
俺は元々ゲイであるので、男のがそういった対象になるのだが、まさか声だけでここまでクル人間がいるとは思わなかった。

次々にあふれる彼のための曲を書き留めながら、俺はメーラーを開いた。

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彼から、コラボOKの返信を貰った時には嬉しさのあまり、画面の前でガッツポーズをしてしまった。
過剰な人気取りというものにあまり興味がなかったが、この時ばかりは、自分がそれなりに人気のある歌い手という事実に感謝した。

そもそも、コラボが初めてだからだろうか、緊張して、かみまくっているヴィーに

「そんな、緊張しないで。」

最初、ミヤ様と俺のこと呼んで、明らかにガチガチに緊張している様子の彼に伝える。

「名前も、みやたん呼びでいいし。」

その方が、仲良くなれた気がするし。
完全に俺の自己満足のための言葉を言う。

「あの、みゃーさんじゃ…。」

なんか、甘えてくる猫みてー。
ベッドでの睦言としてみゃーさんって言ってくれねーかなー。

(マジで、ぶち犯したい。)

「すみません!!」
「いや、大丈夫…。というかむしろ、みゃー呼びで。トークもそれで行こうか。」

俺にかわいく甘える、ヴィーがどうしても聞きたくて、台本をどんどん作成していく。

録音は、かわいすぎて悶えながらとなった。
実際に会わないで録音でよかった。相当やばい顔つきで録音に臨んだ自信がある。
送られてきた歌も、相当良くて、いつも以上に編集作業に力を入れた。

アップした曲はランキングに入るくらいヒットした。
ヴィーのあの歌声なら当然という気持ちと、俺だけのものとして誰の耳にも入らないように閉じ込めてしまいたいという気持ちがせめぎ合う。

自分やべえなと思いながら、今度リアルで会って一緒に録音しないかというお誘いをしようと心に決めた。