そういえば何で優斗先輩は小鳥遊先輩に嫌われていると思っているんだろう。
人当りがやさしい先輩が嫌われるってよっぽどのことだと思う。
「あの、さっきなんで嫌われてるなんて言ったんですか?」
優斗先輩は一瞬、困ったような悲しいような顔をしたけれど話してくれた。
***********
そもそも、俺がこの学園に入学したのは拓斗が希望していたからだ。
別に高校にもなって弟と同じ学校にわざわざ通う必要はないのだが、親の希望もあり2人そろっての高校生活となった。
もともとノリの良い性格も幸いしてかこの異様といえる雰囲気にもすぐなれた。
そもそも、同性愛の素質(といったら語弊があるかもしれない)があったのかもしれない。
同室の小鳥遊ともそれなりに仲良くやっていたつもりだ。
といっても、今になって考えてみると当たり障りのない話しかしてないけれど。
この顔もあってか俺はそれなりにもてた。
一度で良いから抱いて欲しいというやつも沢山いたし、性欲処理に困ることはなかった。
その日も適当に見繕った相手を俺の部屋に連れ込もうとしていた。
正直あの時なんでそうなったかは覚えていないが、リビングで事に及ぼうとしていた。
その時部活で遅くなるはずの小鳥遊が帰ってきてしまった。
ものすごく気まずかった。
小鳥遊は何ていうのかな、侮蔑の目で俺のことを見たんだ。
そして「せめて共有スペース以外でやってくれ」といって自室に入って行ってしまった。
俺呆然としちゃってさ。
それ以上そういうことする雰囲気じゃなくて相手を帰して、ただ何をするわけでもなくボーっとしてたんだ。
夕飯時になって小鳥遊が部屋から出てきたんで、さすがに俺もまずかったかなあと思って「さっきは悪かったな」って謝ったんだ。
そうしたら小鳥遊がさ「アレはお前の恋人か?」って聞くんだ。
そういうわけじゃなかったから「違う」って答えたんだけどさ。
嫌そうな顔して「お前もこの学園の阿呆な空気に乗っかってるのか。今まで話した感じだとそういう風には見えなかったが残念だ。そもそも適当な男を抱いて楽しいのか?友人としてそういう行為は軽蔑に値する。」って言われちゃってさ。
愕然としたね。
その後、お説教されちゃったんだけど、俺みたいなのと小鳥遊は全然違うんだなあって思った。
あいつは剣道をやるためにこの学園に入ったそうだ。
部活のない日も毎日自主練している。
目的のない俺とは大違いだ。
そんなあいつに侮蔑の目で見られて、何か悔しくてさそれからセフレを作るのをやめたわけ。
でもさ、それ以降小鳥遊は俺を避けるようになった。
理由は聞かなくてもわかるけどな。
でも俺はあいつの「軽蔑に値する。」って言葉がいつも頭の中にあってさ。
ずっと目であいつのこと追ってるんだ。
で、気付いたら好きになってた。
俺ってドMなのかね。
嫌われた相手を好きになるなんてさ。
それにもし告白したとしてもまた「この学園の空気に乗っかって」って言われちゃうじゃん。
まあ、そりゃあそうだ。俺もあいつを好きになるまで男に抱かれたいなんてまったく思ってなかったから。
女の代わりみたいに男を抱いていた俺が言っても説得力ないしね。
***********
「俺と小鳥遊の馴れ初めってこんな感じ。」
そういって優斗先輩は自嘲するような笑みを浮かべた。