それでも一緒にいたい9

優斗先輩の部屋までは2人とも無言だった。
僕は不用意なことを言ってしまったので謝りたかったけど、さすがに人が沢山いるのでその話が出来る感じではなかった。

優斗先輩の部屋に通される。

「小鳥遊がいつ帰ってくるかわからないから俺の寝室でいいか?」
「はい」
「とりあえず飲み物でも持ってくるから適当に座ってて。」
「あの。お構いなく」

優斗先輩が飲み物を取りにいってしまったので、僕はとりあえず、ベッドの近くの床に座る。
寮の部屋はリビングなどの共用スペースと机とベッドのある個人の寝室に分かれている。さすがにベッドに座るというわけにもいかないので床にペタンと座ってみる。
あまり友達のいない僕はこうやって人の部屋にお邪魔することもほとんどないのでどうしていればいいか良くわからない。

「ペットボトルの紅茶でいいか?」

といいながら優斗先輩が戻ってきた。
ペットボトルを受け取る。

「どうしてわかった?」
「わかるって何を?」
「だからその俺が小鳥遊のこと……。」
「優斗先輩を見ていたらなんとなくです。
そんなに確信があったわけじゃないですし、それにそれを口に出していうべきじゃありませんでした。
済みません。もちろんですが、このことは誰にも言いませんし。」
「なんとなくか。それってもしかして俺が好き好きオーラを垂れ流しているってことかなあ。
ということはいつ誰にばれてもおかしくない状況ってことか。」
「そんなことは無いと思います。……たぶん。」
「たぶんじゃ駄目じゃん。
あ゛ー、どうしたもんかなあ。」
「そんなに隠しておきたいんですか?」
「そりゃあ、拓斗とツバサちゃんみたいにラブラブなら良いけど、俺の場合友達ですらないしね。
単に隣の部屋で寝泊りしているだけの他人って感じ出し。
それに俺、小鳥遊に嫌われているしね。」
「優斗先輩が嫌われるなんて勘違いじゃないですか?
っていうかラブラブってそんなこと全然ないです。」

拓斗先輩の名前を出されて、失恋のショックがよみがえってくる。
気がつくと涙があふれていた。

「どうしたのツバサちゃん」
「……っひっく。この前、島田先輩に告白して振られちゃったんですよ。
ラブラブどころかせっかく少しは話せるようになってたのにそれも駄目になっちゃいました。」

優斗先輩は拓斗のやつ何考えてるんだ?と唸っていたが何とか涙を止めようと一生懸命になっている僕は気がつかなかった。

優斗先輩は島田先輩のお兄さんなのに何言ってるんだろう。

「すみません。すぐ泣き止むので。」
「大丈夫だよ。
片想いしている同士仲間じゃん。
そうだ、特別に元気の出そうなことしてやろう。」

そういうと優斗先輩は髪の毛を止めているピンをはずして髪の毛を整え

「つばさ、お前は笑っているのが一番だぞ。
……。
……。
なーんちゃって、拓斗の真似をしてみました。
少しは雰囲気でてた?」

といって可笑しそうに笑った。
島田先輩とほとんど同じ顔で恥ずかしくなるようなことを言われてしまった。
僕は自分の顔が真っ赤になるのを感じていた。

「ツバサちゃんが元気出たみたいでよかった。」
「あきらめなくちゃいけないとわかっているんですが、中々決心がつかなくて。」
「何で?別に振られたらあきらめなきゃいけないなんて法律ないじゃん。想ってるだけなら自由でしょ?」
「それはそうかも知れないですけど……。」
「じゃあ、無理しなくてもいいよ。
少なくとも僕の前では無理しないでそのまんまでいいから。」

僕はうれしくてただ頭を上下に振るので精一杯だった。

それから、僕らは秘密の恋を共有する友達になった。