家から少し歩いたところにあるコンビニに入ろうとしたところで声をかけられた。
「あのー。君、S大の生徒？」
「はい？」
ここで返事をしてしまった自分自身をその後呪いたい気持ちになるのを俺は知らない。
「僕もS大生なんですが、それでは今から友達ということですね。
そういうわけで、今日、あなたの家に泊まらせていただけませんか？」
「……他をあたってください。」
なんなんだこいつは。
いきなり泊めてくれとか。初対面だぞ。っつーか友達いないのか？
「僕を知らなそうですね。ということは新入生ですか？
僕と知り合いになっておくと色々役にたちますよ。
別に怪しいものというわけではありませんし。」
知らない人はいないとか、どれだけ自意識過剰なんだろう。
それに充分怪しかった。
頭の中でこの人（一応先輩のようなのでこいつから格上げした。）に突っ込みをいれているとポケットをごそごそしながらさらに話し始めた。
「僕、S大の高梨ゼミの佐々木 正孝と申します。
一応、学生証です。名前しかわからないですが嘘をついていないということをご確認ください。
諸事情で家から追い出されちゃったんですよ。
友達も皆用事があるとかで無理ですし、本当に困っていたところにあなたが来たので。
そういった訳で、藁にもすがる思いで声をかけたんですよ。
そうしたらあなたは同じ大学とのこと、これは渡りに船だと思いました。
ということですので本日はよろしくお願いいたします。」
「……高梨ゼミ。」
なんというマシンガントーク。
それよりも今高梨って言ったよなあ。
高梨教授といえば生物学の権威で、俺がS大を選んだのは彼が教授として教鞭を振るっているからだ。
しかし、彼のゼミ生になるのは色々難しいらしい。
何でこんな残念なやつが。
見た目はイケメンなのは認めるが、だからといって色々と残念すぎる。
しかもよろしくねってもう決まっているのか？
ありえない。
「いや、俺も無理なんで他当たってください。」
「高梨さんのこと気になるんですよね。
僕が推薦したらほぼ確実に高梨ゼミに入れると思いますよ。
もちろん、友達以外の人は紹介できませんが。」
「脅すなよ。」
「やだなあ、友達を脅すわけないじゃないですか？」
「いや、絶対脅しているだろう。」
胡散臭いにっこりスマイルを貼り付けた顔を思いっきり睨みつけてやる。
でも、紹介すればゼミ生になれるというのが本当であれば願ってもないことだ。
学生証も見ているし、家に連れて行ったところで大事にはならないだろう。
仕方がない。
「それ本当か？」
「高梨ゼミの件ですか？それならお約束しましょう。」
「……しょうがない。今日引っ越してきたばっかりで何もない家でよければ来てもいいぞ。」
「それはありがとうございます。
そういえば夕飯のお買い物ですか？それではお礼に僕が奢りましょう。」
俺の手を引っ張って佐々木と名乗った男はコンビニの店内に入っていった。