その後は多分何も変わっていない、と思う。
相変わらず山田とダラダラとコスプレ衣装製作をして、たまに撮影をしている。
アニメを一緒に見て、とりとめのないことを話して、髪の毛を綺麗に染めるコツを染める予定なんてないのに聞く。
少し前までと何も変わらない。
穏やかで居心地がよくて、気を遣わないし、コスプレをしている俺とそうじゃない俺、で態度も特に変わらない。
あの告白がまるで白昼夢だったのではないかとさえ思ってしまうくらい山田は変わっていないように見える。
だから、変わってしまったのは多分俺の方なのかもしれない。
◆
今回の衣装は顔に布がかかっていてよかったと思う。
薄布で作ったそれは多分撮影者である山田から俺の目はほとんど見えないけれど、俺からはうっすらと山田の事が見える。
最近、上手く山田と視線が合わせられない。
今の関係を望んだのは他でもない自分自身なのに、同じように接してくれている山田と視線も碌に合わせられなくなっている。
自分でも馬鹿じゃねーのと思う。
山田は無かったことにすると決めたからなのか、この状況の俺にそのことを指摘すらしない。
こうやって布を挟むことでようやく山田の顔がまともに見れる。
彼はバイトで新調したという一眼レフカメラのレンズをこちらに向けている。
その視線はただひたすら真摯なものに思えた。
それで、ようやく色々考えるのをやめてコスプレに集中できる。
指先から足の先まで自分がどういう形をしているか意識をする。
そうしながらポーズを取ると、山田が何枚も何枚もシャッターをきる。
ポーズを変えるたびに、布の擦れる音がする。
「もう少し視線をあっちに、流してください」
まるで視線が見えているかの様に山田が言う。
顔の方向である程度予測はできるのだろうけれど、ドキリとして彼の指示通り自然を流す。
「なあ、今度はお前の番だ。」
山田の分も衣装は作ってあるのだ。
採寸は告白されるよりかなり前にしてあった。
そこから、衣装は作っている。
山田もコスプレはするし、その時の写真を見たこともある。
目の前で彼が衣装に着替えていることも何度も見た。
何故今回だけ渋っているのかが少しだけ分からない。
「だって、これお揃いじゃないですか」
同じゲームのキャラクターなのだから当たり前だ。
今更何を言っているのだろうと思った。