告白3

照れた様に山田が言う理由がよく分からなかった。

最初から合わせるために作った衣装で、同じ黒色のデザイン違いなのも公式に合わせてだ。
山田がKOUさんは彼がいいですよというからハーフパンツのキャラにしたし、かなり気合を入れて合皮の軍服風衣装を縫ったのだ。

自分でいうのもなんだけど、衣装の出来はちゃんとしている。
揃いの衣装といっても山田の分はハーフパンツじゃないキャラだし何を嫌がっているのか分からなかった。

コスプレをしていると性格違いますよね。と山田はよく言う。
コスプレをして、気が大きくなっているからそう思うのかもしれないけれど、思わず「は?」という低い声が出てしまった。

山田が驚いた表情でこちらを見る。

「俺の作った衣装になんか文句ある?」

俺がそう聞くと、山田は大きく首を振った。

「そんなのある訳ないでしょ!?」
「じゃあ、ちゃんと着ろ」

山田に近づくと胸を押す。
カメラを壊さないように優しくだ。

どっ、と音をたてて山田が尻もちをつく。
驚いた顔をみて少しばかり愉快な気持ちになる。

「なあ、着替えさせてやろうか?」

俺が聞くと、山田が一瞬固まってそれから彼の顔がじわじわと赤くなっていく。

今までこんなこと無かった。
それなのにそれを見て、胸がすく。

優越感が無いと言ったらウソになるかもしれない。
だけど、そうじゃない、嬉しいような切ないような、それでいて初めての衣装に袖を通す直前みたいな、そんな気持ちになる。

変わりたくないと言いつつ、これは無いなと自分でも思う。

けれどそれは自分の内側から体中に染みわたっていくような気がする。

尻もちをついた山田に馬乗りになる。

「いや、ほんと……、着替えは自分でできるので!?」

胸元に手をのばしたのは山田の服を脱がすためではない。

彼の端正な顔立ちを眺める。
その顔を見て、変わってしまっていいのかもしれないという気持ちが勝った。

顔を山田に近づける。
目元が布で隠れている所為で、表情が分かりにくいのだろう。緊張した面持ちでこちらを見上げている。

何となく、こういう時はそうするものだろうと思って目をつむる。
ただ、それは多分山田には分からないだろうけど。

山田の唇に自分のそれを押し付けてから、今フルメイク中だと気が付く。
口紅を舐めてみたことがあるけれど、あまり美味しいものではない。

色味はむしろいつもの血色よりも悪い位の色を塗っているけれど、別に色で味が変わる訳でもない。

まだ、メイクをしていない、山田の唇は、少しかさついていて、それから柔らかい。

唇を離すと先ほどまでの体制のまま驚いた表情をしている山田と目が合う。

「え……?えぇ?」

混乱した様子の山田が何度も言葉にならない声をあげている。

「口紅、不味いのにごめんな?」
「くちべに?」

オウム返しに山田が言う。

味がしないものなのかと、もう一度山田に顔を近づけると、彼の唇を舐めた。

やっぱり、口紅はあまり美味しいものではない。