バードキス(小鳥視点)

夜は長いと思ったのはこの生活を始めてからだ。
監禁と呼べるのかどうかは分からない。

ただ、いつもこの家の敷地の外にある門の鍵はしまっている。
携帯電話は取上げられてしまったが書斎に鍵はされておらずそこに置いてあるノートPCはいつでも使えた。

だから、宅配の食材であるとか日常の細かなものはネット通販で購入できた。
元々身の回りのことや生活全般にあまり興味の無い人だった。
そのためか、盗み見たクレジットカードの番号でした買い物もとがめられることは無かった。

インターネットに繋がるのだ。
逃げようと思えばきっといつでも逃げられる。

時々話しかけるときに使われる髪の毛や洋服という単語に、完全に鳥と勘違いしている訳ではないことは分かっている。
もう無理だって分かっているのにそれにすがりたくなってしまうのだ。

真っ暗な部屋。彼はもう床についた。
暗がりで見下ろす彼は実年齢を感じさせず初めて出会ったときのままだ。

そのまましゃがみ込んで彼を眺めた。

元々恋人らしいと呼べるような関係じゃ無かった。
でももう一度、俺に触れて欲しい。

彼の顔を覗き込むとそっと彼の唇と自分のそれを合わせた。
口付けと呼べるかも怪しい単なるふれあいだった。

刹那、彼の瞼が開いた。
驚く訳でも無く、蔑む訳でも無い。

「発情期か?」

淡々とした言葉に打ちのめされる。
彼の瞳には情欲も思慕も何も浮かんではいない。

前みたいにミチルとは呼んではくれないし、愛情のこもった手で触れてくれることもない。
卵の殻が割れるみたいな音が耳の奥でした気がした。

思わず彼を突き飛ばして後ずさる。
涙があふれるが、彼はきょとんとしたままだ。

鳥は泣くのだろうか。
いっそ本当の小鳥になってしまえればと思う。

人間のままでいることも、小鳥になってしまうこともできない俺はただここから逃げ出せず少しずつ壊れていくこの人と時間を過ごしてしまう。

それでも、なお俺はこの人を愛してしまっているし、この人と共にあることを喜んでしまっているのだ。
救えない。自分でもそう思う。

彼が元に戻るなんて希望はいつもいつもぺしゃんこにされるのだ。
望んでないって言ったら嘘になるけれど、もし俺が今のまま小鳥だとしても俺は最後まできっとこの人のそばにいる。

「小鳥?」

呼ばれた声に意識をそちらに戻す。
相変わらず愛玩動物に向ける態度と瞳でこちらを見る彼に溜息を一つついてから。答える。

といっても俺が何を言っても人間の言葉としては理解できない彼のためにそっと歌を唄う。

またいつかミチルと呼んでほしい。そんな密やかな願いを胸に抱きつつ愛しい人に贈る歌を口ずさんだ。