とある日の放課後、クラス委員に頼まれてプリントにホチキスを打つ作業とアンケートの集計を手伝っていた。
気が付いたら、外は夕焼けで赤くなっていた。
頼られる事は一人で無いと思えるので好きだ。
それがたとえ、“便利”に使われているだけだと分かっていても、それでも一人になってしまうよりマシだと思えた。
仕事も終え委員長はすでに寮に帰った。
薄暗くなってきた、教室で自分の椅子に座り、ぐっと腕を伸ばして伸びをした。
まあ、肉体的疲労が極端に蓄積しづらい体質であるので、高々同じ体勢で2時間いたくらいではなんて事は無いのだが、この手の物は気分の問題だ。
そろそろ帰るかと思っていると教室の入り口から「よう。」と声を掛けられた。
相変わらず気配を消すのが上手い、そう思いながら声のした方を見る。
予想した通り花島会長が緩い笑みを浮かべながら手を振っていた。
「どうしたんすか?」
俺が聞くと、どうやら書類を提出しに行った帰りらしく、一緒に帰らないかと誘われた。
断る理由は何も無いので了解して薄っぺらい鞄を持ち上げた。
花島会長の前まで行くと、何かを思い出したらしくニヤニヤしている。
いつものごとくだがやはり謎な人だ。
と思ったら、俺の前に手を差し出した。
ゴム?ゴム鉄砲だ。
びょーんと間抜けな放物線を描いて俺の方へ飛んでくるゴムをひょいと掴んだ。
「ざーんねん。」
言葉とは裏腹にちっとも残念ではなさそうだ。
それより、そのチャラ男ッぽい喋り方は何だ?
「何スかその喋り方は、気持ち悪いっすよ。」
「えー、おもしろくていいかな?と思ったんだけど…。」
そうだなあとニコニコしながら花島会長は続きを話した。
「木戸がその体育会系調のおかしな敬語?をやめてくれれば、考えてもいーよ。」
「は?これは尊敬の念を表してるっすよ。」
「俺以外に、そんなおかしな喋り方して無いだろうが……。」
やれやれと言う花島会長に正直驚きを隠せない。
一体どこで見ていたというのだ?
「そもそも、Sexの時にはそんな言葉づかいじゃないだろう?」
まあ、その通りなのであるが、何故こんな話し方になってしまうのかが俺自身わからないのであるから仕方がない。
「まあ、おいおい直していくっすよ。」
「おいおい、ね……。」
「そんなことより早く帰るっすよ。」
「わかった、わかった。」
何故、花島会長だけ“特別”になってしまうのかそんな事はわかっている。
俺を御仁として怖れもせず、便利な人間として下に見る事も無いのはこの人だけなのだ。
ただ、一人の人間としての木戸理一を見てくれているのは少なくとも今はこの人だけだ。
何故、この人だけがそうなのかはわからない。
けれど、花島会長と居る時間はひどく落ち着いた。
END