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理一の一番奥の深い部分に一総の切っ先が入り込む。

いつもであれば酷く暴力的な気分になる瞬間なのに、一総の血とそれから眼差しと、灼熱に思考が塗りつぶされているのだけは分かる。

後は喉の奥から漏れてしまう喘ぎを抑えられない事位しか理一には現状を認識できてはいない。

ただ一つ、目の前の人が愛しい男であるということだけが分かっていればそれで充分だった。

ガツガツとえぐる様に注挿を繰り返す一総に揺さぶられながら理一は腕を伸ばす。
背中に回してしまった指が爪を立ててしまうかもしれないなんて考える余裕はもうない。
ただ、目の前の男にすがりたかった。

「中に、なかぁッ……あんッ、あー。」
「クソっ。」

木戸お前わざとやってるだろという一総の声はもう理一には届かなかった。

ほぼ同時に果てた後、理一は一瞬うろんな瞳になったものの二度、三度頭を振るとすぐに一総をしっかりと見つめた。

「本当に木戸は効きにくいな。」
「……まあ、化け物なんで。」

ゼイゼイと荒い息なものの理一は返した。
その言葉にはもう悲壮感はなかった。

「あー、ぐちゃぐちゃっすね。」

理一が自分の体と一総の体を見て言う。

理一の顔色はあまり良くない。

けれど、一総は口角を吊り上げると「木戸はいつでも奇麗だよ。」と答えた。
初めて会った時であったら、それが花島の話術ですか?と受け流せていた言葉だった。

今日だって、そのはずだった。別に一総から妖艶な雰囲気は一切ないし、性行為の後の気怠げな雰囲気こそあったものの花島としての姿ではなかった。

セックスの後に何を恥ずかしがっているんだと、理一自身思わないでもない。
だけど頭で理解できていることが、体と心がついてこないのだ。

「顔真っ赤だぞ。」
「知ってます。」
「嬉しいなあ。」

一総がとろける様な笑みを浮かべる。

「さて、風呂入るぞ。」

もう立ち上がれないから少し待ってと理一が伝える前に、一総は理一のことを抱き上げる。

「ちょっ、え!?」

思わず理一の口からは素っ頓狂な声が出るがそれを無視して一総は理一抱き上げたまま風呂に行く。

「いつの間に風呂入れたんですか……。」

理一が聞くが一総は答えない。

「まあ、こういうのも恋人らしくていいだろ?」

一総が丁寧に理一を浴槽に座らせながら言う。

「恋人っていうか、これ介護みたいなもんすけど、そうですね。」

恋人なんですよね。理一はぽつりと呟く。
浴槽はそれほど大きくはない。成人男性とほぼ変わらぬ体系の理一が使っている湯船に半ば無理やり入ろうとしている一総の動きが止まる。

「だから、自己犠牲で無茶なことをしているのも腹立ててたんだけど、まあそれはもういいんだ。」

一総はもう一度理一を軽く持ち上げると後ろから抱きしめる格好で湯船につかった。

「そんなもんすか?」
「お前だって、俺の体のこと気にしてただろ。」
「まあ、そりゃぁそうっすけど。」

理一は自分自身の鳩尾(みぞおち)のあたりをさすりながら言う。
もう傷は完全にふさがってしまっていて湯でしみることもない。

はあ、と理一は大きく息を吐いた。

「甘えですよ。」

はっきりと理一は言った。

「アンタの胸のそれも、そもそも最初にすがってしまったのも今にして思えば甘えだったと思ってますよ。」

失恋ですら誰にもすがれなかった理一の甘えだった。

何も答えない一総に思わず理一が振り返る。

一総の顔が赤いのは風呂に入って温まったからでは無いだろう。

「アンタもそんな顔するんですね。」

理一は、血を失った後の無理をした行為での体のだ怠さが吹っ飛ぶような気分になった。
「そっか、そうですよね。」

理一は自分自身に確認をする様に言った。

「好きだよ。ずっと甘えてくれると嬉しいから。」

調子を取り戻したらしい一総が言う。

「俺も、好きです。
できればアンタも甘えてくれれば嬉しいっすけどね。」

そういうと理一は体を完全に一総に預ける。

「もう、充分甘えているよ。」

一総はそういうと、腕を理一に向って伸ばした。