槍沢がゴクリと唾を飲み込む。
「この人が九十九を継承しているってことですか?
木戸はこれを隠していたってことか。」
「うるさいわ。
一族は当主に従うべきであって、当主が一族に従うわけではないんですよ?」
アイラが言うが、すぐに周りが止めに入る。
「この件は現当主もご存知ですし、しかるべき時に公表されます。」
雷也がはっきりとそれだけ言う。
「ねえ、これがこの前うちの一族を救ったものの正体ですよ?」
アイラが兄に向かって囁きかける。
「大変だったでしょう?
他との関係も円満に持っていくために公平に守護石を配ったのですから。」
一体どれだけの出血を強いられたのでしょうね。
歌うようにアイラは言う。
普段であればこうやって石を作った後は、酷く暴力的な気分になる。
けれど今日は明らかに嫌味であろう言葉を言われても心は穏やかなままだった。
逆に穏やかでないのは一総の方だったようで「黙れ。」と一喝した。
それは有無を言わせないものだった。一度学園ごと術中においていた男だ。その位のことは造作も無いのだろう。
「道具を探したいなら、他をあたれ。
木戸がどう思おうと、こちらで排除させてもらう。」
理一は思わず一総の顔を見た。その顔にはいつもの笑みもそれから蠱惑的な雰囲気も無い。
先ほどの優しげな表情もごっそりと抜け落ちている。
これが、この人の本質的な部分なのかも知れない。
けれどそれが理一には嬉しかった。
禄でもないということは理一にも分かっている。
思わず理一は笑いだしてしまう。
普段より、酷薄で妖艶な笑みだった。