※パンシザ オレマー
今日も路地裏で喧嘩をした。
強かうった頬が痛い。
結果として勝ったとはいえ、今日のは割とさんざんだ。
別に痛いのはいつものことだからいいのだが、顔にけがをしたのは失敗した。これを見られたら何を言われるか分かったもんじゃない。
帰るのが憂鬱で、ごちゃごちゃと建築資材が山積みになった空き地でゴロゴロしながら時間を潰していた。
「やっぱり、ここにいた」
その辺の女の子より華奢な体つきをした幼馴染が息を切らせながらやってくる。
「よう」
おざなりに片手を上げて返事をした。
幼馴染は俺の前まで来ると持っていた袋を差し出した。
それは両手にのる位の質素な紙の袋だった。
はあはあと整わない息でと満面の笑みで幼馴染、マーチスが差し出した袋の中にはチョコレートがかかったバームクーヘンが1つ入っていた。
「今日、誕生日なんだ。それで貰ったからっ!」
君と食べようと思って、頬をバラ色に染めてマーチスは言った。
誕生日なんて考えたこともなかった。
だから、この幼馴染の誕生日についてもいつだろうって考えることもなかった。
祝ったり祝われたり、そういうのは何かむず痒い。
「おめでとうさん」
困って呟いた言葉でもマーチスは嬉しそうに笑った。
「半分こしようと思ってたんだ。」
取り出したバームクーヘンを手で二つに分ける。
綺麗に装飾されていたものを切り分けたそれは大体半分ずつに割れた。
「また、怪我してるね」
片方を俺に差し出しながらマーチスは言う。
「ああ……。まあ、気にするな。」
しょうがないなと溜息交じりで笑う仕草はマーチスの癖だが、それが妙に大人びて見えることが、ときどきある。
手にのった半分のケーキを眺めてから一口食べた。
甘いものが特別好きってわけじゃあないけれど、横でニコニコと食べる幼馴染を見て、こういうのも悪くないなと思った。
END