あの後、自分の分の録音をした。
主にゲームのメロディーをコーラスとして録るだけだったので問題なくすすんだ。
心配する樹を帰して徹夜で曲を完成させた。
結論から言おう。俺の作った曲はアニメの主題歌として採用された。
プロデューサーの言った条件はクリアしていたし、あの歌声を聞いてこれは駄目だと言えるはずがない。
プロデューサーはデモテープを聞いて絶句した後、俺の作った曲の採用を決めた。
会議が終わった後、社長から俺の進退について自分でも良く冷静に考えるように言われた。
これから本番の音録りもある。
どちらにしろアニメが開始されるまでは辞める訳にはいかないのだ。
その間にゆっくり考えろという事らしい。
昨日徹夜という事もあり今日の所は早退するようにと指示を受けた。
会社を出ながら樹に電話をかけた。
樹はすぐに出た。
「決まったよ。」
一言それだけ言うと、耳元から嗚咽が聞こえた。
「よかったー。」
泣きながら樹は言った。
俺の馬鹿げた意地に付き合ってくれた上に俺より俺の為に喜んでくれる。
こんな奴、樹以外には絶対にいない。
「これで俺家に帰るんだけど、樹来れるか?」
俺が聞くと「行きます。」と返事が返ってきた。
俺が自宅に帰りつくと程なくしてインターホンが鳴った。
樹を家に招き入れるとどちらともなくキスを交わした。
それだけで酷く満たされた気持ちになった。
「これ。」
樹の前にポケットから取り出した物を差し出す。
この家のカギだ。帰りに作っておいたものだ。
「一緒に暮らさないか。」
俺には樹が必要なのだ。
樹はきょとんとした後、じわじわと全身真っ赤になった。
「はい。」
消えそうなそれでいて不思議な透明感のある声で言われた瞬間、俺は目の前の可愛くてたまらない存在を抱きしめた。
END