永久機関は愛を紡ぐ(10万Hitリク企画)

私はこの春、都内の某大学に入学した。
趣味は漫画やアニメとそれからニヤニヤ動画。

所謂オタクだ。
大学を都内にしたのも同人誌即売会に気軽に行きたいからっていう酷い理由。

同じ趣味の友達も出来たし都会での生活を満喫している。

初夏のある日、オタ友と学食でお昼ご飯を食べていた。
オタクたるもの日々の節約が物を言うという事で大体校内にある学食でお昼にしている。
学食と言ってもカフェティリアの様な内装で中々居心地が良い。
ただ、会話の内容は昨日の深夜アニメの感想なのでオシャレかどうかはあまり関係ない。
隣のテーブルには、3年生と思われる男3人が座っていた。
一人は見るからにオタクと言う感じのチェックシャツを着たガリガリでもう一人はそこそこの見た目、もう一人はなんて言ったら良いんだろう普通?良くも無ければ悪くも無い、特徴の無い感じの男だった。

ゼミでの愚痴をそこそことオタクが言い合っていて、それを普通が見守っているそんな感じだった。

「立野も行くだろ!?」

そう聞かれ、普通が答えた。

「あー、俺はパス。」

その声は普通な見た目に反して、ハスキーなのに良く通る声だった。

ん?この声どこかで聞いた事がある気がする。
この人知り合いだったっけ?と思い出していると、スマホが震える。
メッセージアプリを受信したようで取り出して確認すると何故か目の前に居る友人からだった。

メッセージの内容は【これ、ヴィーじゃない!?!?】と書いてあった。

そのメッセージに思わず向かいに座る友人の方を見た。
友人も少し、頬が紅潮して興奮気味だった。

ヴィーと言うのはニヤニヤ動画の歌い手の一人で私も友人もファンの一人だ。
ハスキーな声質と音域の広さで幅広いファンがいる。3月にアニメの主題歌をミヤと担当した事で知名度がさらに上がった歌い手。

そうだ。生放送をした時に聞いた声と同じだ。

でもちょっとだけ残念な気持ちもある。
見た目はフツメンと言ったって、どうしてもファンとしては期待する。

が、目の前に居るヴィーと思われる人間は、非常に、ひじょーに特徴の無い普通の大学生だ。
がっかりと言うのとは少し違うけれど、なんていうかあまりに普通過ぎて本当にこの人がと思ってしまう。

だけど、突然同じ大学というだけで「歌い手のヴィーさんですか?」なんて聞けないのでジッと様子を観察するだけだ。

かなしいかなオタクの性だ。気になってしまうととことん追求したくなってしまうのだ。
隣の席の三人が席を立つと向かいに座る友人と頷きあって彼の後を追った。

学食をでてすぐにヴィー(仮)は履修科目が違うのか他の二人と別れた。
友人とコソコソと後を付ける。

人気の無い中庭にあるベンチに腰を下ろしたその人を少し離れた所から友人と見つめた。すると、とてもリラックスした様子で、何かを口ずさむ。

所謂鼻歌というかな?
軽やかなメロディが彼の口から紡がれる。

聞いた事の無い旋律だが、その声は正にV(ヴィー)の歌声そのもので、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
彼は、私と友人がすぐ近くに居る事に気がつく事も無く、そのまま歌い続けた。

その声を聞いて、顔面が普通で冴えない感じだとかそういう物が全てどうでも良くなった。
友人も私の隣で真っ赤になっていた。

その歌を邪魔してはいけない。そんな使命感に駆られて私も友人も結局声をかける事が出来なかった。

その日、午後の講義に出た後友人と帰ろうと大学の敷地を出ようとしていると、目の前にヴィーが居た。
彼も今帰るところの様で、少し小走り気味に校門に走り寄って行った。
そこには、一人の男性が待っているようだった。
年齢は私たちより少し上のようだが、ブランド品だろうか、サマーニットが良く似合っている。
顔自体はごく普通なのだが、着ている服や髪、型何より雰囲気がイケメン然としている。
雰囲気イケメンと言うのはきっとこういう人の事を言うんじゃないのか等と思っているとヴィーは照れたような、それでいて甘えた笑顔を浮かべながらその人物に駆け寄った。

その表情はお昼に友人に見せていたものとは明らかに別物で、ちょ?ええ!?とあり得ないはずの仮定に混乱に陥りそうになる。
ふと、横に居る友人を見ると、無表情のままプルプルしていた。

何気なさを装って二人でヴィーの元に近付く。

「ミヤさん、待たせてしまって済みません!」
「いや、俺も今来たとこだから大丈夫。」

ミヤ!!今ミヤって言った!?それにこの甘やかな低音は正しくミヤの声だった。

「とりあえず、買い物行って、それから家でいいか?」
「はい。」

誰だ、彼の事を普通なんて言ったやつはって私なんだけど、ミヤに向けるヴィーの表情は普通とか平凡とかそんな区分ではなくとてもとても可愛かった。

私が、オタクで腐女子だからそう見えたのか、実際にあの二人がそういう関係なのかは分からなかった。
でも、それがどんな関係だったとしても、あのヴィーの幸せそうな顔を見てしまったからにはファンとして応援したいなと思ってしまう。彼の笑顔はそんな笑顔だった。

二人がその場を立ち去った後、友人が興奮気味に話しかけてきた。

「ちょっと、見た!!見たよね!!ミヤ×ヴィーって事。ねえ、アレってそう言う事でしょ!?」

隣に居るのは友人なんだけど、ちょっとだけイラっとしてしまった。

「別に、手を繋いでた訳でもないし男二人が一緒に居るってだけで飛躍しすぎだよ。」

そうだ、二人の距離感は終始それなりに気心の知れた友人という距離だった。
手を重ねる訳で無く、並んで歩く距離もそれなりに離れていた。

だから、それはつまり、もし二人が恋人同士だったとしてもその関係を周りに知られたくないという事だろう。
それを、自分の萌えの為に引っかきまわすつもりは無い。

「えー、絶対に怪しいよ!!」

友人はまだ、あの二人についてあれこれ言っていたが、私が乗ってこないと気付くとすぐに別の話しに移っていった。

その日を境に、ネット上にミヤはゲイだ。という書き込みがなされる様になる事をその時の私はまだ知らない。