愛を叫ぶ3

冷静になってみると、言いすぎだと思った。
しかし、電話をしようにもなんて言ったらいいのか分からない。

バカみたいだ。
散々、恋愛がらみの歌を作ってきて、歌詞だっていくらでも出てきたのにこんな時自分の恋人にどう声をかけたらいいかわからず悩む俺はきっとミヤのイメージから、かけ離れているのだろう。

それでもこのままにしておいていいはずもなく、携帯を取り出し樹に電話をかける。
1コール、2コール……。
樹は電話に出る事は無くそのまま留守電のメッセージ応答に繋がった。

もう一度かける事もできたが、恐らく今日はもう出る事は無いだろうと携帯電話を放り投げてそのまま仰向けに寝転んだ。

ついこの前まで、仕事も私生活も上手くいきすぎている位だと思っていたのに、それが全て足元から崩れおちていくようだ。
自分自身を磨いて、一つ一つ築き上げてきたものが瓦礫の山になっていた事にはじめて気付かされるというのはこういう感じだろうか。

アニメ化に際して使う価値もない俺の楽曲に、仕事の事での苛立ちをあたり散らしてしまった恋人。
自分自身を見て欲しいなんて、どこの中二病だよ。
そもそも、実際の自分より良く見せるようにして恋人の座におさまったのはどこのどいつだよと自分自身に突っ込みたい。

「あ゛ー。」

手で顔を覆うようにして溜息ひとつ。
いい歳こいて何やってるんだよ。
成人してからもう何年経っていると思ってるんだよ。

確か冷蔵庫にビールが入っていた。
だけど、それを飲んだところでどうにもならない事も分かっていた。

「クソ。」

足で反動を付けて勢いよく起き上り、机に向かう。引き出しを開け目的のものを取りだした。それはシンプルな便箋と封筒だ。

3年弱ほど前、会社に入った時に今度こそなるべく長く勤めようと思った。
やるせなさと、袋小路にでも入りこんでしまった様な閉塞感の中、はっきり言ってこの方法しか思い浮かばなかった。

翌日、樹からメールがあった。
そこには

【済みません来週頭から考査期間に入るので暫く忙しくなります。
試験が終わったら、直接会って話したいです。】

と書かれていた。
いよいよ最後通牒を通告されるのかと携帯電話を握る手に力が入った。

通勤鞄に辞表は入っていたが、それから1週間ほど提出出来ず、そのままになっていた。

まるで死刑宣告を受けているにも関わらず刑の執行を何とか先延ばしにできないか画策しているようで、誰もいない家に帰ると乾いた笑いが漏れた。