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部屋へ戻ってからも、福島の頭の中では柚木の言葉が何度も、何度もこだましていた。
抱かれたいと考えたことは無かった。
けれど、自分の気持ちを自覚して、それで、それで……。
まあ、お笑い種だよな、と福島も思った。思ってしまった。
土台ありえない話なのだ。考えるだけ無駄と分かっていながらずっとそればかり考えていた。
顔を合わせることなんか到底出来そうに無く、夕飯を一緒にという諏訪野の誘いは適当な理由をつけて断った。
顔を合わせるのが怖かった。
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とはいえ、逃げ続けることも出来ず、それから数日後の放課後諏訪野に捕まった。
やや、怒っているのか苛立っているのか、そんな態度を隠しもしない諏訪野に食堂に連れて行かれ、生徒会専用スペースの一番奥のテーブルに座らされた。
相変わらず諏訪野は仏頂面でウェイターに注文を済ませるとこちらを向いた。
けれど、福島は何を話したらいいのか分からなかった。
もともと、友人が多いたちではない。二人きりで微妙な沈黙が続く。
「あー、柾(まさき)こんなところにいた!探したんだぞ。」
諏訪野の名前を呼びながら、柚木は二人が座っているテーブルの前まで来ると空いている椅子に座った。
諏訪野の横の椅子に座った柚木をみて、福島はお似合いってこういうことを言うのかなあと思う。
素の性格を知っているものの、見るからにお似合いの二人を見て、福島は静かに息を吐いた。
「あ、そうだ。これこの前言ってた特製栄養ドリンクなんだけど。」
ニコニコとしながら、柚木がタンブラーを差し出した。
手作りのようだった。
諏訪野が自分の目の前でそれを飲むのが、福島には耐えられなかった。
せめて、自分がいなくなってから二人きりでやって欲しかった。
福島は、そのタンブラーに手を伸ばすと、そのままつかんで自分の口元に持っていくと、一気に飲み干した。
褒められたことじゃないどころか、顰蹙ものだろう。
けれど、どうしても諏訪野が飲む姿を見たくなかった福島が思いついたのはこの方法しかなかった。
目を丸くして福島をみた柚木は、小さく舌打ちをした。
最初に感じた違和感は、喉がわずかに熱い気がしたことだった。
頭を少し振るとふらりとする。
「アルコール……?」
福島が思い浮かんだのはそれだった。
けれどそんな味はしなかったと思う。
ただ、気持ち悪いくらい甘ったるい飲み物だった。
「おい、大丈夫か。」
諏訪野の声が耳から入ってきて、福島はぶるりと小さく震えた。
体が熱かった。
諏訪野の声が耳から体全体に広がる様で、それがじわじわと、福島の身を焦がす。
何故だか涙がにじんでしまい諏訪野を見ると、ッチと舌打ちをされた。
「媚薬か。」
諏訪野の口から出た言葉は、福島にとって耳慣れない言葉で一瞬意味が分からなかった。ビクリと震えた柚木を見て、諏訪野はため息をついた。
「何を、言って……。」
状況が飲み込めない福島が声を出す。
その声は吐息交じりで福島自身が驚いてしまった。
「たまに、親衛隊でいるんだよ。自分で媚薬飲んで迫ってきたり、俺に飲ませようとしたりするやつが。」
多分、これもそうだろう。と諏訪野はタンブラーをひと舐めしてそれから眉根を寄せる。
「理由…、は大体予想がつくし、ここでこうやって言い合いをしていてもしょうがないな。」
諏訪野がちらりと福島を見ながら言った。
福島はその視線だけでまた、体の体温が上がる気がした。