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諏訪野にとって、福島は目の上のたんこぶだった。
初めてあったときは、それはそれは可愛かった。
それが、あれあれよあれよといううちに成長してしまって、現在のあの無表情だ。
諏訪野はそう思っている。
イライラした気持ちで、生徒会に回ってきた書類を見た。
そこには、一人の少年の顔写真が貼ってあった。
この学園には珍しい、転校生が来るという内容だった。
長めの野暮ったい前髪で顔はよく分からなかった。
今日の夕方学園に到着予定ということだったが、諏訪野には会食の予定が入っていた。
「金沢、転校生の案内を頼む。」
目の前で、仕事をする副会長に声をかけると面倒臭そうに顔を上げた。
「仕方が無いですね。埋め合わせはいずれしてくださいね。」
副会長が綺麗な笑みを浮かべた。
それは、TVのタレントがするような微笑みで、慣れてしまった諏訪野は何も感じることは無かった。
きっと、副会長親衛隊のメンバーならば喜んだに違いない。
諏訪野は今日の会食のことを考えると憂鬱な気分になる。
諏訪野の家族仲は決して良いとは言えない。だが、それは大して珍しいことでもなかった。
別に骨肉の争いをしているわけでもない。
だから、楽しみでなくとも、家族と会うだけでわざわざ憂鬱な気持ちにはならない。
福島だ。あの無表情が諏訪野は苦手だった。
もっというと嫌いなのだ。
無表情で、チクチクと嫌味を言われるあの食事会が諏訪野は嫌いだった。
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諏訪野に嫌われている。
その事を福島はよく知っていた。
それでいいと思ってもいた。
将来、仕事のパートナーになることは半ば決まっていたが、それはまだ先のことであったし、そもそも憎まれ役が必要だと福島は考えていた。
諏訪野を褒める人間も、崇める人間も掃いて捨てるほどいた。
だから、自分は憎まれ役でいよう。
そう考えるようになったのは、中学に上がってすぐのことだった。
諏訪野のことが嫌いなのか、何度も何度も聞かれたその質問の答えはいつも決まっていた。
好きとか嫌いとかという事は関係ない。
好きだったとして、何かが変わる筈がないのだ。
ならば、好きでも嫌いでも自分のすべきことは変わらない。
笑顔の裏で、福島と諏訪野をチェックする大人達を砂を噛む様な気持ちで乗り越えた。
それから学園に帰ってベッドに横たわる。
福島は自分自身の親衛隊の体調からメッセージが入っていることに気が付いてスマートフォンを操作した。
こんな面白味の無い人間にも、親衛隊が小規模ながらあることは未だになれない。
画面には、転校生が来たこと。
それから、生徒会のメンバーが諏訪野以外転校生を気に入ったことが簡潔に書いてあった。
珍しいこともあったものだ。
それ以上の感情が福島の胸中に浮かぶことは無かった。
だから、それから数日後、諏訪野が転校生に「俺の物になれ。」と宣言したと聞いた時は正直驚きが隠せなかった。