同居しますか12

さすがにほんの少しだけ心配になって、書斎へ行くがそこは電気も付いておらず誰もいない。
まさか、何も言わず帰ったのか?と思ったがそのまま蔵へ向かう。

蔵の重い扉は俺が戻った時のまま少し開いたままになっていた。
ギギギと音を立てながら、俺が入れる分扉を開ける。

裸電球しかなく、非常に薄暗い中、あいつは床に座り込みひたすら資料に目を通していた。
あの胡散臭い笑みは完全になく、かなりの集中状態らしく扉を開く音も聞こえなかったようだ。
その真剣そうな表情に吸い寄せられるようにあいつの顔を見つめる。
どのくらい見つめてしまっただろうか、今自分がしている事に気が付き何をやっているのかと自分自身に呆れる。

「……おい。」

声を掛けるが、こちらをちらりと見る事も無い。
仕方がないので靴を脱いで近づき、肩をたたく。

「おい、もう6時過ぎてるぞ。」

とんとんと肩を軽くたたきながらもう一度声をかけると、あいつはビクリとした後、こちらを見た。
目があった時には、すでに薄い笑みを浮かべていて、ああ、この表情は標準装備なのかと変な事を考える。

「…すみません。つい夢中になってしまいました。」

少し、申し訳なさそうに謝られる。

「別にいいんだけど、この部屋暗いから、書斎で読めって言っただろ?」

俺が言うと、あいつは

「実物を目の前にすると一刻でも早くと焦ってしまいまして……。」

とバツが悪そうに笑った。
何だ、そんな表情もできるんじゃないか。

俺は昨日の事も忘れて、

「飯できてるぞ、早く来い。」

と言ってしまった。

「もしかして、貴方の手作りですか?まるで、新婚のようですね。」

馬鹿はやっぱり馬鹿だった。
クソ、なんて事を俺は言ってしまったんだ。
馬鹿の真剣そうな表情に絆されそうになるなんて!!
自己嫌悪ってこういう事を言うんだな、何秒か前に戻って自分の発言を取り消したい。

現実はそんなことは無理で、ニヤニヤしながら資料を棚に戻す馬鹿をただ茫然と見ている事しかできなかった。