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遠征部隊の帰還が適ったのは出発から実に3年の月日がたった後だった。
小さな小競り合いだと知らされていた戦闘は泥沼化し、沈静するのにそれだけの時間がかかってしまったのだ。
国は守られた。

その知らせに帝都は大いに沸いた。

帰還する部隊が帝都近くまで戻ってきているとのことで、出迎えを帝都待機組の騎士たちが任されたのだ。
戦闘が行われたのであるから、負傷兵等も居るため凱旋の様に帰ってくる騎士団から、彼らを引き受けて別のルートを使って騎士団の病院に運ぶ等仕事もある。

「騎士団長にお目通り願いたい。」

副長からの書状を持って野営地に向かった。
帝都からおおよそ1日という距離に、彼らは幕営していた。
団長が一人でいるであろうそこへ半ば強引に押し入った。

後で何らかの罰を受けるかも知れない。
それは俺も副長も考えたが、恐らく貴族のしがらみという横やりの入らないチャンスは帝都に入る前にしか無いと思った。

訝しげにこちらを見る団長は相変わらず美丈夫というのにふさわしい姿をしていた。
金色の目がこちらを見る。

「許可したつもりは無かったが。」

俺は無言のまま、副長からの書状を団長に押し付けるように渡した。
それから、膝を折り

「なにとぞ、目をお通し下さい。」

声を張り上げた。
這いつくばれば、この人が現状に気が付いてくれるのであれば別にそれをしてもかまわないと思った。

俺の必死さに負けたのか何なのかは分からなかったが、副長からの手紙を団長は読み始めた。

その顔は読み進めるにつれて血色が悪くなっていき最後には酷く動揺している様だった。
こんな団長を見るのは初めてだった。

「貴様はグレンの子を見た事があるのか。」

それは獣のうなりの様な声だった。

「……はい。金色の瞳と金色の髪を持つ子どもでした。」

団長は目を見開いた。

「グレンは俺の事を父親だと言っているのか。」
「……いいえ。しかしながら、きっと覚えていないだろうと、そう言っていました。」

酔ったはずみなのか何なのかは聞いていないので知らない。
だが、確かにグレンさんはそう言っていた。

団長は長い長い溜息をついた。

「グレンが騎士団を退役した事、子どもを一人で生んだ事に間違いは無いんだな。」
「はい。」
「なぜ、お前がこれを?」
「副長が、帝都に入ってからでは遅いと。」
「そうか。」

団長は手で目頭を押さえる様にした後、俺に一つ頼みごとをした。

「今夜一晩、ここで俺のフリをしてくれ。」
「貴方は……。」
「グレンに会って話さなければけない事がある。」

団長一人であればギリギリ出立までに街の外れまで行って帰ってこれるだろう。
残念ながらそれほど話す時間はとれないかもしれないが……。

「分かりました。」
「遠征の疲れが出たという事にして、誰もここに近付かない様にする。
お前はとにかく俺の代わりに布団をかぶっていてくれればいい。」

これからほぼ丸一日団長のが居ないと言う事実を隠し通さねばならない。
ただ、丸くなって時間が過ぎ去るのを待った。

だから、その夜、団長とグレンさんの間に何が有ったのか俺は知らない。
ただ翌朝、太陽の昇りきる前に帰ってきた団長は晴々とした表情をしていた。

元々頼もしく思っていたし、恰好良いとも思っていたがそれでもまるで別人の様だと思った。

戻ってきた団長は一言

「今まで、あの人を支えてくれて、ありがとう。」

と言った。
俺は、ただそれだけで、ああよかったと思ったのだ。

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