繋がってても2(小西視点)

-小西視点-

最近は佐紀と昼食をとることが多い。
夕食は概ね俊介ととるので、ほかに話す時間がないのだ。

転校直後は放課後、生徒会室へ来ていたが今は佐紀自身があまり近寄らない様にしている。
それは、糸が絡まりやすい体質の所為だと知っているので強くは誘えない。

それに、仕事を早く済ませて俊介と過ごしたいというのもある。

今日も、一緒に過ごしていると、新聞部だと名乗る男子が話に割って入った。
正直、邪魔だなあと思ったが笑顔で対応する。

何の話かと思えば、俺と佐紀が付き合っているかどうかを聞いてくる。
そんな雰囲気じゃないだろう。
よく見てれば普通に分かると思う。

佐紀と顔を見合わせて笑う。

「佐紀は、大切な友人だよぉー。」

ニコリと笑って言ってやると、一瞬たじろぐ新聞部員。

「それは、一番大切な、友人と捉えていいのでしょうか!?」

たじろいだのは一瞬で直ぐに食い気味に聞いてくる。

すると、普段は人の話をきちんと聞くことが圧倒的に多い佐紀が全然違う方向、食堂の入り口を見ているのが分かる。

「佐紀、どうしたの?」

俺が聞くと佐紀はこちらを見た。
それから新聞部の方を見て、こう言ったのだ。

「恋愛感情もなければ、一番大切な友人でもないですよ。こんなヘタレは。」

その表情は、いつもよりも数段美しく新聞部員は見惚れたようになっていた。
俺も、勿論恋愛感情がないのは分かるがあまりの物言いにポカンとしてしまう。

「えっ!?ちょっと佐紀?どうしたの?」

俺がオロオロと聞くと、佐紀は少しだけ怒っている様だった。

「彼は、大地先輩さえいれば、親衛隊のやっかみも、謂われない誹謗中傷もきっとどうでもいいと思ってますよ。
あの人は、貴方以外はどうでもいいんですよ?」

彼が誰のことを言っているのかは直ぐに分かった。でも今、何故こんな話をするのか?それが分からなかった。

「さすがに俺以外どうでもいいとかそんなこと無いでしょ?」

新聞部員が居て話に置き去りなっているが、そんなものは後でいくらでも誤魔化しが効く。

「俺の件だって、大地先輩が頼んでくれなかったら引き受けて無いと思いますよ。
それに……。」

佐紀は食堂の入り口を再度見た。

「彼のプライドを酷く傷つけるかもしれないですけど。」

佐紀はそう前置きをしてから言った。

「彼、今真っ青な顔をして学食を出ていきましたよ?
まるで、公式カップルに質問みたいなノリでしたからね。」

それは、新聞部員を責める様であって、その実、俺を責めていた。

だって、普段学食なんか利用しないじゃないか。そう思って、どうせ俊介は見ていないなんて思って。
ガタリと立ち上がると、佐紀と新聞部員をそれぞれ見た。

「佐紀ゴメン。埋め合わせは必ずするから。」
「気にしないでください。馬に蹴られたくはないですし。」

佐紀が笑った。
新聞部員に向かって早口で

「俺、最愛の恋人が居るから。だからそれ以外の人には興味無いんだよ。
だから、佐紀はそういうのとは違うよ。」

そう言って、走り出した。

糸をだとって、ただたどって。
俺の指から伸びる糸の先にいる俊介に向かって、ただただ走る。

糸が伸びた先にトボトボと歩く俊介を見つけて、駆け寄って、それから抱きしめた。

「は……?! ちょっ、アンタ何やってるんですか!?」

後ろから抱き着いたので、びっくりして完全にいつもの様に言われる。
それがちょっと嬉しい。

「ゴメン、俊介だけだから、俺が好きなのは。」

ぎゅうぎゅうに抱きしめながら言う。
ここが往来だってことは勿論わかっているが、知ったことではない。

俊介はぎこちなく固まっている。
だけど、その耳が赤くなっている事に気が付いて、そこを食みたい衝動に駆られる。

「……離せ。アンタ、自分の立場分かってるのか。」

小さな、小さな声で言われたって聞いてやれない。

そっとキスをする様に耳に唇を落とした。
ぶるぶると小刻みに震える俊介を、こちらを見るように反転させると、その顔には涙が滲んでいた。

「アンタおかしいですよ。アンタみたいなのは、本当は俺みたいなのと居るべきじゃないんだ。」

はあ、と音を立てて溜息をつく。

「バッカじゃねーの。」

鼻で笑ってやった。

「俺は、俺の好きな人と一緒にいるに決まってるじゃん。」

そっと髪をなでると、俊介は更に顔をくしゃくしゃにする。

「あー、泣いちゃ駄目だよ。午後の授業出れなくなる。」
「わかってます。」

直ぐに俊介の顔はいつもの無表情に戻った。
けれども、周りを見渡してここが廊下だということに気が付いて一気に真っ赤になった。

「小西先輩、分かっててやってるんですか?」

無表情のまま、見上げられる。

「公表しようと思って。いらぬ誤解を生みたく無いしね。」

そう答えると、長い長い溜息をついた後、「わかりました。」とだけ俊介は言った。

ほら、やっぱり許してくれた。
それが俺にとってどれだけ嬉しいことなのか俊介は知らない。

思わず、湧き上がってしまった愛しさに

「よし、今日はもう帰ろうか!」

と言った。

「帰る訳無いでしょう。」

と冷たい声が帰ってきたけれど、心は温かいままだった。