繋がってても1

あの人が遊ばなくなったという話は転入生が来てすぐに噂で聞いた。
それでも、親衛隊は統率がとれたままだったし、へらへらと一緒に行動しているところをみたこともあった。

それが、徐々に親衛隊と距離を置き始めて、周りが気が付いた時には既に彼の周りにはクラスメイト数人と生徒会、それからあの転校生しか居なくなっていた。
親衛隊すらしばらくは自分たちが距離を取り始められているということに気が付けなかったのだ。

あの人の周りに所謂性的な友達が居なくなって直ぐに、あの人と転入生が付き合いだしたという噂を聞いた。
最初はもしかしてだった話も今では付き合っている前提として話が進んでいる。

今日もクラスメイトと話をしていたらそんな話になった。

「なんで、刺されないんだろうな。」

出てきたのは、本音のほんの一部だった。
クラスメイトの顔が訝し気だ。

「だって、会計様だからなあ。」

困ったような笑顔を浮かべられた。

「そもそも、お互いに分かっててだし、なんかあの人憎めないっていうかな。」
「そうそう、親衛隊が面倒じゃないってのも大きいかもな。あそこは完全にファンクラブだろ?」

そういうものなのかと思う。
例え体だけの関係だったとしても、忘れられなくならないのだろうか。
だって、あんなに優しく触るのだ。

つい、あの人に触れられた時のことを思い出してしまって、無駄に赤面する。

「いや亘理、お前がおかしいって言ってるんじゃないよ!?」

慌てた様に言われ、思わず首を振って口を開く。

「いや、なんでもないんだ。」
「でも、普通なら問題になるよな。
もはやチートだろあの人。
この前も2-Aの大崎二股して殴られたって言ってたし。」

話題が変わってホッとする。
あの人のことについてまともに会話ができるとは思えなかった。

だから、会話が巡り巡って昼食を一緒に食堂で食べるということになってしまったのだが、上手くはぐらかせず混雑を極める食堂に向かうことになった。

食堂へ続く廊下は糸がまるで川の様に伝っていて、あまり気分が良くない。
なるべく下を見ないようにして食堂に入りテーブルに座った。

この学園の食堂はまるでレストランの様で食券を買わなくて済むのがいい。
自分より前に並んでいる人からのびる糸を見ていると、食欲がどんどん落ちてしまう。

教室でも糸を見たくないが為に授業中はただひたすら黒板を見ているか手元のノートを見ているのだ。
その手元ですら、最近までは見るもの億劫だった。

悩みに悩んで、クラブハウスサンドを注文した。
学食内の席は特に指定はないのだが、なんとなくこの辺は3年とか、運動部の場所とか決まっている。

中でも奥まった場所にあるテーブルは、生徒会や風紀委員会の役員の半ば専用席の様になっていた。

奥にはあの人と、それから転入生の五十嵐君が向かい合って座って食事をしていた。

「やっぱり、あの二人絵になるよな。」

俺もそう思う。
男同士なんかって言う前に、美形の二人が共にいるのは目の保養だ。

元々あまり無かった食欲が、ごっそりと無くなった。

注目されているというのが視線で分かるだろうに、二人は気にした様子もなくニコニコと笑いあっていた。

そこに、一人のひょろりとした生徒が近づいていく。
腕につけた腕章と手に持ったカメラでその生徒の所属が分かった。

新聞部のその生徒は頭を一度下げると、何やら訊ねている。
ここまで声は聞こえない。

密着取材は人気の企画だということを知っているが、それならば生徒会を通すだろう。
何について聞かれているかなんて、明確だった。

新聞部員が話終わると、あの人と五十嵐君は顔を見合わせて、二人同時に笑顔を浮かべた。
なんか、もう、限界で思わず立ち上がる。
クラスメイトが驚いてこちらを見る。

「亘理?ってお前、無茶苦茶顔色悪いぞ。大丈夫か!?」

それに、曖昧に笑い返す。

「悪い。先に教室戻ってるな。」

席を離れるときにチラリと見た奥のテーブルでは、相変わらず慣れた様子で新聞部員と話すあの人が見えた。
五十嵐君と目があった気がしたけれど、気にしないことにして食堂を出た。