亘理俊介という人間は概ね無表情だ。
告白をした時こそ泣いていたが、その後はあまり泣くことはない。
泣いて欲しい訳じゃないが、ちょっとだけ気に食わない。
嬉しいのか、悲しいのか、寂しいのか、付き合いだしてほんの少しだけ分かるようになったがもっと感情を表してくれてもいいのにと思う瞬間は度々ある。
まあ、淡々としているところも可愛く見えるし、その辺は徐々に出してくれればいいのかも知れない。
久々にベッドで泣かせて(この場合は啼かせてなのかな?)ぐったりと眠り込む恋人を見つめる。
寝ている時の表情は幼く見えた。
不意に、手を絡ませるように握られた。
起きているのかと思ったら目は閉じている。
寝ぼけただけのようだった。
俊介の指が、俺の指に絡む糸を確認する様に撫でる。
それから、ふわりと笑顔を浮かべた。
その破壊力と言ったら今からたたき起こしてもう一戦挑みたくなるものだった。
まあ、実際に無理矢理起こす様な真似はしなかったが。
繋がれた手をそっと握り返すと、幸せな気持ちで眠りに落ちた。
◆
目を覚ますと、もう明るくなっていて横にある筈の暖かさが無く、少しだけ残念な気持ちになる。
視線だけを動かして俊介を探すとベッドの端に座っていた。
声をかけようとして、思いとどまる。
俊介は二人の間を伸びる糸の、瘤になってしまった部分を、大事そうに愛おしそうに撫でていた。
表情こそ見えないが、その指先はとても優しくて、胸の奥がぎゅっと掴まれた様になって息が詰まった。
その時溢れ出たのは、我慢できない位の愛情だった。
そっと起き上がると、俊介を背中から抱き込んだ。
途端にギクリとなって糸から手を離してしまったことを残念に思った。
背後から覗き込むと、俊介の顔は真っ赤に染まっていた。
「俊介、可愛すぎなんだけど。」
「はい?まだ寝ぼけてますか?」
帰ってきたのは辛辣な言葉だったが、朝から可愛い姿を見ることができて満足だった。
「二人でゆっくり朝ごはん食べるのと、抱きつぶされるのとどっちがいい?」
「なんですか、その選択肢。勿論」
「抱きつぶされる方だよね。わかった。」
「ちょっ!?何言ってるんですかアンタ、ちょっっと待っ――」
無理矢理唇をふさぐと徐々に力が抜けていく恋人に内心笑みを深める。
案外、俺の恋人は感情が分かりやすいのかもしれない。
了