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俺の先から伸びる糸を忌々しく見つめた。
先ほどの訪問者がやっていたように糸に触ろうとして、そのまま手は突き抜ける。

何度目か分からないその状況に、舌打ちを一つした。

今までこれが誰の目にも見えない物で、自分自身、気でも狂ってるのかと思った事が、それこそ何回もあった。
あいつは、これが見えると言った。それからそれを触って見せた。
糸をそっと摘む様に撫でた光景が、いつまでの脳裏から離れない。

糸によって恋愛の全てが決まらないという事は、知っていた。
事実、俺の両親の糸は全く別の所にのびている様だった。
だからといって子供の目からだが、夫婦仲は良い様に見えた。

あいつも冷めた目で、少しきっかけを作れる程度のものだと言っていた。

それに救われたのも確かだった。

誰にも見えないこの糸に。がんじがらめにされそうになっていたのだ。
やっと、冷静にこの糸と向き合えるかも知れないと思った。

すると、この糸の先に誰が繋がっているのか興味を持った。
今までは、もし、繋がっている先の人間に出会ってしまったら絶望しかないのではないかと、あえて探さない様にしていた。

この糸の先に誰が繋がっているのか、それを確かめてから、糸を切るのか否かを決めても遅くは無いのではないか。
垂れ下がる糸を見ながら、そう思った。

丁度、今週末は三連休になっている。日本国内に繋がる先があるのであれば問題ない。
海の向こうに伸びていた場合は、その時また考えようと思った。

とにかく、今週末は外出届けを出して、出かけようと決めた。

土曜日早朝、まだ薄暗いうちに起きて、外出するため着替える。
アクセサリーを付けてから、一人苦笑した。

この先が誰に繋がってるのかは分からないが、わざわざめかしこむ必要も無いのだ。
そもそも俺の好きなのは、あの子のはずなのに何やってるんだか。

髪の毛のセットを適当に済ませ自室を出た。
糸はまるで物理法則に則っているかのように、ここは7階だというのにその床にそって這っている。
役員専用フロアの人数等大したことは無く、廊下には数本の糸があるだけだ、それをたどって行けばいいのだ。

とにかく外に出なくてはとエレベータに乗り1階へ。それから、寮の外に出たところで違和感に気が付く。
糸が寮の中に向かって伸びているのだ。

今まで、こんな事があっただろうか。
毎日朝、登校する時にこんな風に寮の中に向かって糸が伸びていた事はあっただろうか。
一々、確認しては居なかったが、恐らく無い。

どういう事だ?と思う。
この学園の人間と繋がっているという事だろうか。
だとすると、朝俺よりも早く寮を出ている。運動部の誰かなのだろうか。

刹那、無表情に、淡々と糸の切り方を話すあいつの姿が脳裏をよぎる。
俺の糸が誰と繋がっているかを知っていて、あんな事を言ったのだろうか。ムカつきに近いモヤモヤとした感情が、腹の奥にたまるのが分かった。

寮の周りをぐるりと一周した。やはりこの糸の繋がる先は寮内にいるらしい。
その糸を手繰り寄せる様に、1階から確認する。

心臓の音が、やけに煩く感じた。

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