おまけ
「圭吾さん、昨日送ってくれた曲ですけど。」
夕食用の買い出しをした後、僕はミヤさんの家に遊びに来ていた。
外では手も繋げないし、まるで友人同士の様に振舞わないといけないけれど、その分圭吾さんは二人っきりの時、甘やかしてくれるから不満は無い。
少し前に、圭吾さんの会社の取引先の人に圭吾さんがゲイである事を暴露されて窮地に立たされた。
別に俺は悪い事はしていないって気持ちも勿論あるけれど、会社を辞めてフリーのサウンドクリエイターとして仕事を始めたばかりのミヤさんの足枷にだけはなりたくないと思った。
フリーになったとはいえ、ニヤニヤの投稿をやめるつもりは無いらしく昨日も僕の為の楽曲のデモを送ってきてくれた。
今度参加予定のニヤニヤ大集会で披露予定の曲だ。
今までどちらかと言うとメロウなものが多かったのだけど、今回は完全なロック調の曲だった。
正直、曲聞いた時にはびっくりした。
だけど口ずさんでみると、しっくりきて圭吾さんが僕の為だけにに作ってくれた事が分かった。
人前で歌うなんて殆どした事が無くて不安でいっぱいだけど、ミヤさんが紡いでくれたこの曲なら大丈夫。そう思えた。
「ん?気に入らなかったか?」
「まさか!!良い曲過ぎて嬉しいです。ありがとうございます。」
俺が言うと圭吾さんは目尻を下げ「いつもと感じ違ってるから少し心配だった。」と言った。
「大集会楽しみになってきました。」
俺が言うと圭吾さんも「俺もだ。」返す。
音楽を通じて圭吾さんと繋がっている様な気がしてそれが心底嬉しかった。
「他にも何曲か作ったんだけど歌うか?」
「本当ですか!?うわー、楽しみだな。」
準備してくるから先風呂入るか?と聞かれたが、断って俺が食事の後片付け、ミヤさんが機材の準備をする事になった。
普通、当日聞いて当日音録りは無いけれど、ネタとしていけそうならアップしちゃうかと言う事になった。でもきっとミヤさんはなんだかんだで完璧主義者なので今日録った分はきっと上げる事は無いんだと思う。
食器を全て片付けて作業部屋に行くとミヤさんは準備が終わった様でくいくいっと手招きされる。
ヘッドホンを渡されてそれを付けると曲が始まった。
そのまま圭吾さんの上に座らさせられる。
歌は圭吾さん自身が歌っていたものがサンプルとして入っていた。
相変わらず、脳みそを揺らす歌声で背中に感じる圭吾さんの体温と相まってどうにかなってしまいそうだ。
曲が終わると圭吾さんにヘッドホンを外されて「どうだった?」と覗き込むように聞かれた。
ああ、多分真っ赤になってしまっている事に気付かれた。
「あー、クソ。今日は色々と歌ってもらおうと思ったんだけど。」
「ご、ごめ。」
「ああ、違う。樹はなんも悪くない。堪え性の無い俺が悪いだけだから。」
と耳を食まれる。
先ほどまで圭吾さんの歌声を聞いていたその余韻の残る耳を甘噛みされて、ふぅふぅとくぐもった声が漏れてしまう。
「明日、休みだよな?」
耳元で重低音で囁かれ、ただ首を上下に振った。
「じゃあ、ベッドルーム行くか。」
俺の返事は決まっている。それはきっと圭吾さんも知っていてそのまま俺の返事を待つことなく俺を抱き上げるとベッドルームへと向かった。
END