告白する前はとてもとても楽しみで、告白した後は気まずくて仕方が無かった島田先輩との図書当番の日。
今は少なくとも僕の中では気まずいという気持ちは小さい。
優斗先輩に僕の恋心を肯定してもらえた所為かな?
「島田先輩、こっちの本戻してきます。」
「ああ、頼む。」
今日も図書館を利用する人はあまりいない。
裕福なうちがいいので本は買ってしまうのか、いつでもあまり人は居ない。
返却された本を戻していくが、そんなに量が無いのですぐ終わってしまった。
ついでに自分が読む本を選んでカウンターに戻る。
「終わりました。あれ、島田先輩読んでる本って、この前賞取ったやつですよね?」
「ああ。」
「どうですか?前作の歴史物からうって変わって現代高校生の話みたいですが。
僕歴史物のときかなり好きだったので、イメージ違いすぎて。」
「心情を細かく追っているところは同じだな。文章はモチーフにあわせて少し軽めになっている気はするが…。まだ読んでいる途中だが、いい意味で期待を裏切ってくれると思うぞ。」
「へえ。じゃあ、島田先輩読み終わったら、僕も読んでみようかな。」
「ああ、じゃあ明日の当番のときに渡すな。」
「ありがとうございます。」
島田先輩が微笑みながら話しかけてくれる。
前とまったく同じというわけにはいかないけど、島田先輩と話が出来る。
それだけで僕には充分だった。
「ちわっす。」
「優斗先輩。こんにちわ。」
「たっくん、こんにちわは?」
島田先輩は優斗先輩を一瞥しただけでまた本を読み始めた。
「ツバサちゃん、練習したアレできた?」
「いや、あの、無理ですよ。」
「えー、がんばってみなよ。」
アレというのはたぶん島田先輩を名前呼びする件だろう。
無理という意味で顔の前で手を振る。
考えただけで顔が真っ赤になってしまうのがわかる。
そんな状況でまともに呼べる訳無いよ。
「もー、本当に可愛いなあ。
そういえば、何か変な噂になっているみたいでごめんねー。
最近そうでもないと思っていたんだけどまだ、俺のファンっていたみたいでさ。
遊べない俺なんて価値はもう無いのにね。」
「価値ないなんて言わないでください。
僕は今の優斗先輩のほうが良いと思いますよ。
何とか誤解が解けると良いですよね。」
「ツバサちゃん……、ありがとう。」
優斗先輩は本当に優しく、優しく笑った。
そして、じゃあ邪魔しちゃ悪いから行くね、といって帰っていった。
「最近、優斗と仲良いのか?」
「はい。友達になったんです。」
「……。」
島田先輩が苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「どうかしましたか?」
「……その髪も優斗のためなのか?」
???
話がかみ合っていない気がする。
なんで突然僕の髪の毛の話が出てくるんだろう。
「この髪はあの……。」
「いや、なんでもない。忘れてくれ。」
今日の島田先輩は何かおかしい気がする。
でも、僕はなんと言って話しかけたらいいかがわからず、結局聞いてみることが出来なかった。
こんなとき今まであまりにも人間付き合いをしてくることが出来なかった自分の無力さを感じてしまう。
いつか、少しでも島田先輩の心の内を聞かせてもらうことが出来ると良いな。
そう思いながら、島田先輩の顔をジーっと見ていた。
「顔に何かついているか?」
「いえっ!!何でも無いです。」
「……なら良いが。」
つい見とれてしまった。
絶対に気持ち悪いと思われたと思う。
あわてて、持っていた本を読み始めた。