大学の入学式を控えた前日、俺は入学する大学の近くにある日本家屋に来ていた。
普通、大学へ通うための一人暮らしといえばアパートを借りると相場が決まっている。
しかし、俺はこのだだっ広く古い(良い言い方をするのであれば趣のある)この家に住むことになっている。
なぜ、アパートにすまないのか、簡単である。
この家を所有しているからである。
高校2年の終わりに、母方の祖父が亡くなった。
大往生だったため通夜・告別式は和やかといっては問題があるのかも知れないが滞りなく行われた。
祖父は事業をしており、それなりの遺産があった。
ここで骨肉の争いとなればまるで小説の中の世界であるが、祖父は遺言状を遺していた。内容も事業を継いでいる伯父を中心に分けるということで特に親戚などから異論が出ることもなかった。
ただ、なぜか俺も相続人として名前があった。
小さいころはおじいちゃん子でよく懐いていたが最近ではほとんど会うことのない祖父だったため正直驚いた。
それがこれから暮らす予定の家なのだが、世の中そんなに甘くないもので。
相続のためには条件があった。
負担付き贈与というらしいが
“日本家屋の維持管理と庭の手入れを月1回は行う。”
というものだった。
普通は親に任せて適当にとなるのだろうが、法律の大変さでそれは無理らしく結局父方の年上の従兄弟に相談し、親戚と簡単に協議してもらった。
結局、その家は俺が相続することとなり維持管理は自分でやるが、とりあえず大学を卒業するまでは維持管理費用はうちの親父が出すことになった。
まあ、丁度行きたいと思っていた大学の近くに建っているのでよしとする。
相続手続きが終わったのがつい最近のため、実際にこの家にくるのは祖父が亡くなった後初めてだ。
埃とかかなりたまってるんだろうなあ。正直面倒臭い。
とりあえず今日は掃除に専念することにする。
がんばらないと明日には荷物が送られてきてしまう。
荷物といっても家具はもともと置いてあるものを使うので、身の回りのものと家電ぐらいなのだが。