–とある元騎士団員視点–
最初は多分、アルフレートが騎士団に入隊して暫く立った時だったと思う。
金髪に金の瞳というとても目立つ容姿に貴族の肩書き、騎士団の中でもあいつはとても目立っていた。
その時のオレは初めて後輩を任されたってだけの単なる騎士団員で自分の事だけで精一杯だった。
それを言い訳にしてはいけないのかも知れないが、それに気が付いたのは事が起きてからだった。
無表情で同期を殴りつけるアルフレートをただ茫然と見つめる。
怯えを孕んだ表情をし、殴られる後輩を庇う様に間に入る。
殴られた後輩が因縁を付けた事は知っている。
今まで、ネチネチと嫌がらせの様な事をされていた事も知っていた。
役の付いていない騎士団の中で、貴族と言う事実がさほど影響しない事も。
昇格の可能性のある子爵以上の貴族であれば話は別であろうが、男爵と下級貴族に対しては劣等感のぶつけどころになっている事も分かっていた。
なのに俺は何もしなかったのだ。
無表情にオレを見つめるその目が少しだけ怖かったのだ。
戦争で人を殺して、魔獣と対峙した事だってあるはずなのにただ、その視線が怖いと思った。
その場は別の同僚に任せ、アルフレートの腕を引いて訓練場の裏手まで連れてきた。
「あー、その、大丈夫だったか?」
バツの悪さもあってぶっきら棒になってしまった言葉に、無表情のままアルフレートは答えたのだ。
「別にあの位慣れてるんでなんて事無いですよ。」
眉を動かす事すらしないその顔はまるで、精巧に作られた人形の様で彼の美貌を引き立ててる。
場違いだと分かっていながら俺はそんな事を考えていた。
「用事がそれだけならもう行きますけど良いですか?」
面倒臭そうに言われ、ああと返すだけで精一杯だった。
それだけ、の、はずだった。
翌日、訓練で再度アルフレートと顔を合わせるまでは。
アルフレートは昨日の無表情が嘘の様に人好きのする笑みを浮かべ他の団員と話していた。
正直戸惑いが隠せなかった。
それでも、と思いアルフレートに話しかける。
「へ?!何の事ですか?」
まるで意味が分からないという視線を向けられ、こちらが意味が分からない。
「昨日の事だが……。」
絞り出す様に聞いた俺の言葉に、あいつは不思議そうな顔をするだけだった。
まるで昨日の事は白昼夢の様だった。
隠している感じは無かった。
「わりぃ、俺の勘違いだ。」
俺がそう言うと、そうですかと返された。
それが、俺があいつの事を目で追う様になった多分最初だった。