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それから3年の月日が経った。
アルフレートは、自分の実力を見せつける様にメキメキと頭角を現し、あの日の様に揉める事は無くなった。

アルフレートは誰よりも強くなった。
だが、彼の家は男爵号しか持っていない。
平民にとっては貴族は貴族だろうという気もするのだがそう云うものでも無いらしい。

彼は騎士団の団長になる事は無いのだ。
それが騎士団に属する全ての人間の共通認識だった。

それが覆される事になった日。現実には陛下がアルフレートを騎士団長にする旨の勅命を出されて人事が発令された日から数日後、お祝ムードの中、俺とアルフレートは二人で飲みに行った。
思えばあの日、俺もアルフレートも浴びるほどは酒は飲んでいなかったのかも知れない。

終始笑顔で明るい雰囲気のアルフレートと飲む酒は旨かった。
騎士団長昇格おめでとうと声をかけるとあいつは笑った。確かに笑ったと記憶している。

俺も後輩の昇進が素直に嬉しかった。
だって、騎士団長だ。全ての騎士の憧れだ。

こうやって、二人で飲める事は最後になるのかも知れないし、それは寂しく無いって言ったら嘘になるのかも知れないが、それでも、彼の実力が認められて嬉しかったのだ。

酔ってべろんべろんになったアルフレートを俺は自宅に送り届ける事になった。
今までは隊舎での生活だったが、団長になったアルフレートは専用の部屋が城内に準備されるらしい。
だが、今日は久々に自宅へ帰るらしい。

彼の自宅はやはり平民の家とは違う豪華なものだった。
だが、誰も居ない。

使用人の一人も居ない事を一瞬不思議に思ったものの、ベロベロになっているアルフレートから鍵のを預かり豪奢な門を開け、扉を開けた。

彼のおぼつかない案内でアルフレートを寝室へ連れていきベッドに寝かせようとした。

さて、帰るかと思ったが、それは叶わなかった。

酒に酔ったのであろう座りきった目、赤くなった肌、酒臭い息、それから、恐ろしい位無表情の顔。俺はアルフレートに組み敷かれ、茫然とその無表情の顔を見上げた。

蹂躙という言葉がふさわしい形で抱かれた。
アレはセックスだったのかと聞かれると正直分からない。暴力だけの様な気もするし、ただ、行き場を失ったアルフレートの叫びを受け止めただけなのかも知れない。
そんな行為だった。

朝、辛い腰を抱え、あいつが起きたら一発殴ってやると決めていたが、結局おれはアルフレートを殴らなかった。

あいつは昨日の夜の事を覚えて等居なかったのだ。

服を着て居ない事を不思議がるアルフレートに、酔って脱いだ、吐いたんだよ。と説明すると直ぐに納得して謝ってきた。

あの日の事は俺にとってもあいつにとっても無かった事になった。

それからも、何かある度にあいつは無表情に俺を抱いた。
最初は意味の分からなかった俺も段々と分かった。分かってしまった。
こいつは、重すぎる重圧に耐えかねると俺の所へ来るのだと。
最初の騎士団長任命の時もそうだ。
その後も、何かある度に俺の所へ来ていた。逆に俺の所へ来たという事は何かあったのかと考える様になった。
恐ろしい位、こいつの肩には色々なものが乗せられているという事に気が付いて、ますます何も言えなくなった。

何故俺の所へ来るのか、理由なんぞ考えたくも無かった。

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