※同棲初日編、夕食後の話だと思う
一緒に暮らそう。と言われた意味を俺はもっとちゃんと考えた方がよかった。
部屋はあの人の匂いでいっぱいだし、あの人の気配がずっとしている場所だ。
寮生活をしていた頃、あの人の部屋で待っててと言われた時だってそれは同じだけれど、あの時とは少し違う。
あの人の場所が同時に俺の場所でもあるって事実がこんなにも幸せで、それでいてどうしたらいいのか分からず心臓がドキドキとしてしまうと思わなかった。
引っ越しのトラックで運ばれた荷物を、部屋に積み上げる。
寮での生活も長かったし、そもそも男の一人分の荷物だ。
大した量ではないので、明日荷ほどきすればいい。
ただ、ここが俺の帰ってくる家で、それがあの人と同じだということがくすぐったい。
「今日はもうこの位にしようか。」
パンツ出してなくても俺の貸してあげるし。
泊まりに来た時用に数枚の下着は置いてあるのに、大地さんはそんなことを言う。
もしかして、この人も二人きりの生活に浮足だっているのだろうか。
俺みたいにそわそわとしてるのかもしれないと思うとじんわりと嬉しい。
ふふっ、と思わず声をだして笑ってしまう。
「あー、もう。」
パンツの替え、本当に必要になるから、そう言いながらあの人は目を細めた。
* * *
あの人のベッドでこういう事をするのは初めてじゃない。
ねっとりとしたキスをされて、服を脱がされる。
体の中は期待でいっぱいで、大地さんにされるすべての事をよろこんでいる。
だから、あの人が「舐めて?」って言ったときも、本当は嬉しくて、だけどそんな事は言えなくて頷いただけだった。
あの人の昂りに舌を這わせる。
先端まで舐めたあと、そのまま口内に含む。
自分があの人に奉仕している筈なのに、自分の内側が疼く気がする。
添えた手から伸びる糸が視界に入った。
糸が繋がる先の手で髪の毛を撫でられる。
半ば夢中で頭を前後させていると「もう、いいよ。」と言われる。
この人に満足して欲しいといつも思っている。
一度、口の中で出してくれてもよかった。
大地さんは頭をなでると、俺の下肢に手をのばした。
「俺は、こっちに出したいな。」
みんなお見通しなんだろうか、それとも俺が物欲しそうにしていただろうか。
ローションまみれにされながら、あの人の指が俺の中を広げようと動く。
そのため、どちらだったか聞くことはできず、ただ、吐息に混じる喘ぎ声を上げるばかりだった。
あの人の昂りを受け入れるときには、快楽に思考は半ばとろけてしまっていた。
腰をガツガツと打ちつけられて、強か喘ぐ。
もう何度も見せてしまっていて、これが好きなのだとあの人も知っている筈。
あの人の表情にも欲情が滲んでいてそれが嬉しい。
「好き、好きです……。」
うわごとの様に呟くと、ひと際ガツンと中を穿たれる。
甲高い声を上げながら体を快感に反らすと、あの人が喉仏から鎖骨にかけてを舐めた。
そんな刺激すら気持ちよくて涙を滲ませながら快楽に震えた。
* * *
あの人が俺をの中から昂りを引き抜いて、もう一度ベッドにもぐりこんだ時にはもう、夜もいい時間になっていた。
体が重い。
手を動かすのも、寝返りを打つのも億劫だ。
だけど、事後の余韻に浸りながら過ごす、この甘やかな時間が俺は好きだった。
「今日から、一緒に暮らすんですね……。」
眠気を我慢しながらぼんやりとあの人に伝える。
「明日も明後日も、目を覚ますとずっと横で俊介が眠っていると思うと、幸せだなって思うよ。」
俺の髪の毛を柔らかく撫でながらあの人は言う。
帰らなくちゃならない事を心配しなくていい。
「次に、アンタが帰ってきたら『おかえりなさい』って言ってあげますね。」
先ほどまでの行為で重くなった体でそういうと、あの人は「それは、すごく楽しみだね。」そう言って俺のこめかみにそっとキスを落とした。
了