男二人で一つの傘に入っても、雨はほとんど避けられない。
傘が一つしかないからと、割と密着していたはずなのに触れていない方の肩はずぶ濡れになっている。
あの人も似たようなもので、羽織っていたジャケットがじっとりと濡れているのが見える。
なんで連絡も無く来たの? とも、何かあった? とも聞かれなかった。
体を半分ずつ濡らして、マンションのエントランスでお互い無言で傘をたたむ。
「傘、あんまり意味なかったね。」
雨は相変わらずしとしとと降っている。
あの人の髪の毛に雨のしずくが付いているのが見えて、思わず手をのばす。
情動に近い感覚で、あの人の髪に手をのばしてそのまま頬を撫でたところで我に返る。
ここはマンションのエントランスで誰が通るかわかったものじゃないのだ。
慌てて手を引っ込めると、あの人はこちらを見て双眸を緩めた。
濡れた服が重くなってべとべとと肌に張り付く感覚が気持ち悪い。
それに俺の所為で濡れてしまった、小西先輩が心配だ。
二人でエレベーターに乗ってそれからあの人の部屋の前まで行く。
「毎回、毎回、こんな風にがっつきたくないんだけど、まあ仕方がないか。」
いつもより語尾にかかる言葉が乱暴なものに変わり始めているのに、ぞくりとする。
言葉遣いはどんどん、ぶっきらぼうになっていくに、声に甘さをはらんでいくのを聞くのが好きだ。
「俺も同じようなものですから。」
俺が言うと、あの人は大きなため息をついて「ほんと、俊介のそういうとこ、だよ?」とよく訳の分からない事を言った。
この先の事を期待してるのなんて、俺だって一緒なのに。
「あー糞、学校への連絡先にさせとくべきだった。」
あの人は部屋のドアの鍵を開けると、そんなことを言いながら俺を部屋に招き入れてくれた。
了