「なんかピンとこないんだよ。」
衣装も作ったしウィッグもカットした。
アレンジ衣装とはいえキャラの作り込みもかなりきちんとやったつもりだ。
なのに、いまいちピンとこない。
「衣装の写真ってあるんですか?」
何故か一緒につるむ感じになっている山田に言われて、作った衣装を見せる。
「えー、充分カッコいいんじゃないですか。」
相変わらず細かいところまですごいですよね。
山田に言われるがそういう事じゃない。
「うーん。なんていうか、こう、かっこよすぎるのか?」
自分でも言語化することの出来ない感じでよく分からない受け答えになる。
「んー、これのテーマってなんなんですか?」
「桜……なんだけどな。」
フーンと言ってから山田は黙ってしまう。
そうだよな、微妙だよな。
いっそのこと一から作り直すかと思ったところで、山田は「KOUさん。ネイルって興味ありますか?」
と聞いた。
◆
「ねえちゃんから、借りて来ました!」
動作を確認するためだろう。スイッチを入れると小さな白い箱は濃い青色に光る。
週末大荷物をもって俺の家に来た山田は少し興奮気味にそう言った。
「ジェルで形を作ってここに指突っ込むと固まるんですよ。」
そう言って機械を端に置いて両手を這いとばかりに山田は俺に向ける。
手を出してと言われるが、こんなもん素人がやっても、碌なことにならないのでは?と思う。
「ねえちゃんに鍛えられてるから大丈夫ですよ。」
山田に向って手を差し出すと、器用に爪の形を作っていく。
「別にKOUさんだって、ちょっと練習すればすぐできる様になるでしょうに。」
薄いピンク色のグラデーションになっていくのが面白くて思わず自分の爪をじいっと見ると山田がそんなことを言う。
「だって、コス用の小物自作ですよね?」
角とか手甲とか自分でつくってるんですよね、俺あれ好きです。
と言われて照れくさい。
小物の造型をするのは好きだ。だからコスプレをしている部分もある。
けれど、こんな風に小さな小さなものをこんなに繊細には作り上げられない。
土台を作ったところだと山田は言うけれど、それでも自分ひとりでやる普通のマニキュアより少なくとも形は綺麗だ。
キラキラと光る粉みたいなものを乗せていくと桜の花びらの様なものが金色の縁取りで浮かぶ。
可愛すぎず上品なデザインは、完全に男と分かる俺の指先なのに美しく見える。
「すごいな。」
思わず本音が出ると「だから、いつもやらされてるって言ったじゃないですか……って、へ!?」
素直に褒めちゃ悪いだろうか。
ウィッグも、衣装もすでに出してあったため色も絶妙にマッチしていて、とてもいい絵が撮れそうな気がした。
「最後の硬化をすれば完成ですから。」
そう、山田に言われる。
「本当の桜も欲しかったな。」
撮影は家でしか撮らない。
そう決めているから仕方が無い。
けれど、あまりの出来栄えにそう思った。
「一応百均の造花は持ってきていますから。」
背景の手伝いでもなんでもしますよ。
上機嫌で山田が言う。手先の器用さを褒めたのがそんなにも嬉しかったのだろうか。
長めの爪で化粧をするのは少しばかりコツがいったが、それでも今までで一番いいものが出来たという手ごたえがあった。
「おい。ぼーっとしてどうした?」
覗き込むと山田が突然咳き込む。
「大丈夫か?おい。」
「大丈夫です。あの一枚俺も写真撮らせてもらっていいですか?」
背景用の布の前で、山田のカメラを見据える。
ミラーレスとはいえ、カメラを持ってきてるのにさも今思いついたみたいに一枚と言ってくるのは少し笑える。
「別に、いいよ。」
ポーズを取ると結局何枚か……何十枚かよく知らないけどシャッターを取っていた。
造花を持って、それから指先を顔の近くに持って行って、何枚も何枚も。
いかにもという写真は動画サイトではあまり好まれないのだけれど、あまりに真剣に写真をとっているので「後で俺にも見せろよ。」というと、少ししてから「……わかりました。」と答えた。
間の意味が分からない。
それから、スマホと自分のカメラで写真を撮って音楽をつけてサイトに投稿した。
実はいつもよりいいねは少なかった。
だけど、別に誰かに見てもらえるとかはどうでも良かった。
やっぱり本物の桜の前で撮りたかった。
来年もう一度、山田に声をかけて撮影会をしてみたいなんて、自分らしくない事を考えてしまった。