※王ヴァイ 軍パロ(坂是風味)
西地区の外れにある、スラム、その中にある一軒の家の前に帝国陸軍准将である坂井大輔は立っていた。
と言っても、目の前にあるその建物は家と呼ぶにはあまりに貧相な物で廃材を集めてきたプレハブのようなものだった。
「本当に、こんなところにテロリストが潜伏しているのか?」
思わず独り言が出る。
いや、いてもらわなくては困るのだ。
折角護衛が付いていない状況でここまで来れたのだ。今日を逃すと次にいつこうして抜け出せるか分からない。
帝国もそこまで堕ちてはいない、こちらで先に彼らを確保出来なければ、そこで彼らはまさしくお終いだろう。
大輔が扉が代わりに立てかけられたトタンの波板をずらし中を覗き込むと中は思っていたより片付いていた。
というより、何も無いという方が正しいだろう。
「ハズレ、か?」
室内を見渡すと「うぉん。」と物影から犬が飛び出してきた。
値踏みをするように犬に見られ、不快感からだろうか、大輔は眉をひそめた。
当てが外れてしまったが、ここで無いのであれば仕方がない。大輔が踵を返そうとした時、もぞもぞと何かが動いた。
それは丁度犬が出てきたあたりの床で、大輔はホルスターに手を掛けた。
犬は尻尾を振りながら影の方に走り寄った。
大輔は注意深くその影を見る。
「256おはよう。」
犬に向かってだろう、それが話しかけた。
大輔はその影が、とりあえず人間であった事に安心したが、ホルスターに添えた手は離さない。
恐らく床で寝ていたのであろう、その人物はむくりと起き上った。
恐らく成人年齢に達していないであろうその少年は目をこすりながら犬を撫でていた。
――少年だと?
帝国陸軍広報部のシステムを乗っ取ったテロリストが残したヒントを元にここへ来た。
だが、そこに少年がいるという事は予測していなかった。
「キミが天才ハッカー君かな?」
大輔が話しかけると、少年は驚いた顔で大輔の方を見た後、立ち上がり逃げようとする。
その腕をつかみ逃げようとする少年を制する。
逃れようとじたばた暴れる少年に
「こんなナリしてるが、一応軍人だ。一般人に振りほどく事は無理だぞ。」
ニヤリ、器用に片方の口角だけをあげ大輔は言った。
うなだれるように動きを止めた少年をまじまじと見た後大輔は口を開いた。
「なあ、一応確認何だが、キミが、今回の一連の事件の首謀者か?」
「しゅ…僕は一人です。」
大輔は驚きで目を見開いた。
* * *
詳しく少年に話を聞くと、彼は是枝一希といって18歳ここに一人で住んでいるということ、陸軍へのハッキングは一人でやったことが分かった。
「是枝、選べ。俺と来るか、断頭台に乗るか。」
一希はおずおずと大輔の手を取った。
大輔は高笑いを上げたい気持ちを抑え一希に荷物をまとめるように指示をした。