「また、あなたですか。」
先生は僕が社会科準備室に入った瞬間ため息をついた。
ちゃんと、ドアはノックしたし制服に乱れもない。
そりゃあ髪の毛はちょっと茶色いけど、そこまで風紀を乱してるって訳じゃない。
だから、そんなあきれた風な言い方をしないでほしい。
「えー、先生に毎日会いたいんだよ。」
好きなんだから。ともう何度目になったか分からない告白を先生にしたけれど、先生は大きくため息をついてそれからすぐにデスクにある紙の束に視線を移してしまった。
最初に告白をしたときこそ、申し訳なさそうに断りの言葉を言っていたはずなのに今ではまるで何も聞いてなかった様な態度を取る様になってしまった。
「先生はもうちょっと俺の事考えてくれてもいいと思う。」
思わずそう言ってしまうと先生は「生徒のことはきちんと考えていますよ。」と言った。
「そうじゃなくてさ。」
思わず子供みたいな言い方をしてしまう。
「生徒相手にそれ以外なんてしませんよ。」
先生はこちらを見て言う。眼鏡越しに見える先生の目は少し困っている様に見える。
それは俺の願望なのかもしれないけれど、目が合った瞬間少しずれた視線に自分の中でそういうことにしておきたい気持ちが膨らむ。
困らせたくないのに、困らせたい。
どうにもならなくて下手くそな笑みを浮かべることしかできない。
はあ、と先生は大きくため息をついた。
それから「授業用のプリント綴じるの手伝いますか?」と聞いた。
「勿論!!……です。」
ギロリと睨まれて思わず取ってつけたような、ですに先生は声を出さないで笑った。
その笑顔をかわいいと思いながら多分俺しか使わないパイプ椅子を広げて先生の横に座った。
もう一度先生がため息をついたけれど、それすらも愛おしい気がしてニヤニヤと笑いながらステープラーを握り締めてしまった。
了