「ねえ、料理教えてくれない?」
俺が言うと拓斗は少し驚いた顔をした後、目を細める。
可愛くないその顔に、おおむね同じ顔を持つ俺はあんまり匠吾の前で目を細めるのはやめておこうと思った。
「優斗、家でも飯なんて作らないのになんで突然……。」
拓斗がめんどくさそうに言う。
一緒にいるツバサちゃんがそれを見てオロオロしているのはちょっと可愛いなと思った瞬間、拓斗がッチ、と舌打ちをした。
変なところが聡いところがやっぱり兄弟だなあと思う。
「どうせ恋人に振舞いたいとかそんなんだろ。
カセットコンロ貸してやるから鍋でもやれ。鍋でも。」
拓斗は人と係わるのがあまり好きでない事は家族なのでよく知っている。
だから料理を覚えて基本の生活のできる限りを自分で完結させることができる様にしていることも。
一人で料理をして、それを一人で食べて、一人で本を読む。
そういうものが好きな男だ。
だから、いくら兄弟と言っても、面倒なのだろう。
ただ、最近その彼が変わってしまたことも近くで見ているから知っている。
一人でいることが好きだったのに、今は恋人と二人でいたくて仕方が無いのだ。
それに、恋人が不安げにこちらをを見ているというだけで、拓斗はため息をついてそれから「少しだけだからな……。」と言った。
以前だったら、ありえなかった光景が少し眩しい様な照れる様な、不思議な気持ちになる。
*****
寮部屋に備え付けられたミニキッチンは男三人が並ぶと狭い。
ツバサちゃんが「僕もやりたいです!」と言ったから二人そろって料理を教わっている。
作ったものを温め直して匠吾と食べられる様に、メニューは定番の肉じゃがと鯖の味噌煮、それからスペアリブとレンコンの煮物を作ることになった
「スペアリブ煮込むのは電気圧力鍋でやるから。」
そういいながら切り方、味付け、火の加減を教わる。
出来上がった料理はどれも美味しくて、これなら匠吾も喜んでもらえるかもと思う。
「他の料理も――」
拓斗に睨まれて言葉を引っ込める。
「じゃあ、優斗先輩僕と料理練習しませんか?」
同室の許可は何とか取りますから。
ツバサちゃんとなら練習も楽しいかもしれない。
拓斗が舌打ちをこらえたのが分かる。お互い兄弟だからそういう部分は何となく分かってしまう。
「たまに、ならここで料理教えてやるから。」
俺とツバサちゃんが二人で料理するっていうのが気に食わないだけなのに、拓斗はそんなことを言ってしまう。
思わず笑うと、拓斗は「米炊き忘れるなよ。」とぶっきらぼうに言った。
End