続1-2

家に招いた武藤を見て母さんは何か言いたげだったけれど、それでもごく普通の対応をしてくれた。
中学の頃は良く友達を連れて来ていた。それこそ武藤みたいに背の高いやつも多かった。
今は中学の頃仲の良かったやつとは会うことは無いから久しぶりの来客だったし、そもそも武藤みたいなタイプの人間を連れてきたことが無かったのだ。

自室にある小さめのテレビにDVDは繋がれている。
適当に見繕ったDVDは、日本のプロバスケリーグの試合映像とそれから、中学の時試合研究用に渡された高校のインターハイの映像。
特に高校生の試合は故障以降自分自身も見たことは無い。

手は震えていなかっただろうか、変なところばかり気になる。
既に床に座っていた武藤は、持ってきたスポーツドリンクのうち一本を投げてよこす。
それを受け取って武藤の横に座る。

映像は思ったより普通の気持ちで見れた。
プロのプレイは素直に凄いと思えたし、インターハイの映像は多分武藤にも参考になったと思う。

二人で無言のまま画面に視線を送る。
ああ、やっぱりバスケっていいなと思う。

別に武藤は俺に解説なんか求めなかったし、俺もさすがに説明できるほどいろんなものは割り切れてはいない。
両方終わったところで、思わず息を吐きだす。

未だに少しバスケと向き合う時には緊張する。
あの時、武藤にボールを渡されてシュートした時が例外だったのだ。

「なあ、この辺にバスケコート無いか?」

武藤に言われ、ようやくそちらに視線を移す。

「いや、なんか、体動かしたくなって。」
「ってお前、靴は?ボールは?」
「靴は一応鞄に入りっぱなしになってる。ボールは……。あー、ボールは無いな。一旦家帰るしかないか。」
「靴があるならいい。
俺んちにコートあるから。」

武藤の嬉しそうな顔はまるで犬みたいだった。

自宅にあるのはストリート用のコートだ。中学の時に父が張り切って庭を改装した。
今はそれほど使ってはいない。
両親が言うには、それなりに練習しているじゃないってことだが、結局足に負担がかからない程度なので昔に比べては全然だった。
貸したボールでドリブルをして武藤は感触を確かめている様に見えた。

それから、ゴールまで一気だった。
地面を蹴る音がしたかと思ったら武藤の体が宙を舞う。

そのまま綺麗にゴールポストに体が届いてダンクシュートが決まった。

元々、身長は伸び悩んだし、ダンクも碌にできなかった。
だけど、もう絶対に手の届かない光景を見て奥歯を強く噛んだ。

「ああ、悪い。」

顔に出したつもりは無かったが、もしかしたら酷い顔をしていたのかもしれない。
気軽に頭を撫でてくる武藤に申し訳なさが募る。

「少しだったら出来るのか?」
「足に負担をかけなきゃ。」
「じゃあ、1on1は無理だな。
フリースロー教えてくれよ。」

俺に合わせてくれているのに、教えて欲しいと言っているんだなという事はなんとなく分かった。
だけど、断れるほど八つ当たりで怒りをぶつけられる相手じゃなかったし、断れるほどバスケから興味が無くなってもいなかった。

「じゃあ、10本勝負で負けた方は昼飯おごるってことで。」
「えっ!?ちょっと待て、教えるんじゃ……。」

心に残っているわだかまりみたいなものを全部振り払うみたいに笑ってから、拾ったボールをゴール向かって放り投げる。
ボールは放物線を描いて、リングの中央に落ちる。

「見本は見せた。始めようか。」

慌てる武藤にボールを投げて渡すと、笑顔で受け取る。
まるで友達みたいだなと唐突に思った。

お題:続編

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