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※バスケ物BL<友情って感じです。

好きな事があったとしてもおいそれとは言えない物だ。
例えばワールドカップ開催中に、別のスポーツに夢中になっていたとしてもとりあえず話を合わせてしまうとか。

部活にでも入っていれば、そのスポーツ中心の生活をしていてもちっともおかしくは無いのだけれど、そうではない帰宅部の生徒にとって好きなスポーツの話をするのもままならない。

じゃあ部活に入ればいいって思うかもしれない。
でも、それが出来ない人間もいるのだ。

「おい佐藤。昨日のサッカーみたか?」
「ああ、ロスタイムの逆転すごかったよな。」

クラスメイトに話しかけられ適当に返事を返す。

教室の一番後ろに座るひときわ大きいクラスメイトに視線を送る。

―――あいつだったら、バスケの話し出来るんだろうか?

バスケ好きなのに何でやらないんだって聞かれてしまう可能性もあるよな。

確かバスケ部でも2年生ながらエースとして活躍しているらしい。
精悍という言葉がぴったりの所謂好青年然としたその人物は今年初めて同じクラスになったのだが、まだ碌な会話をしたこともない。

バスケの話、聞きてーな。

中学のバスケ部の同期は皆別の学校へ進学してしまった。
今でも、それなりに連絡はとり合っているいるが、やはりバスケを辞めてしまった俺に気を使ってかあまりバスケの話はしてこない。
今はもう割り切っているので、別に気を使わなくてもいいのにな。

委員会の仕事で帰宅が遅くなってしまった日、ふと体育館をみるとまだ灯りが点っていた。
その光に吸い寄せられるように体育館へと向かった。

熱気を逃がすためだろう。開かれた扉から中をのぞくとそこには、件の同級生が一人で黙々とシュート練習をしていた。

高二にして185cmを優に超える身長からボールが放たれる様は正に圧巻で、見入ってしまった。
かごに入っているボールをひたすらとっては投げ、とっては投げしているだけなのだが一つ一つの動作が真剣で、ああ、こいつバスケが好きなんだなとすぐ分かった。

かごの中のボールが全て終わると、ボールを集めるためにあちこち走り回る。
偶然こちらを向いた時目があった。

「何か用?」
「いや、用は無いけど……。」
「俺の事、見てた?」
「あー、ごめん。勝手に見られるのやだったよな。」
「いや、そんなことはないけど。ちなみにどうだった?俺のフォーム。」
「左手、もうチョイ、下から支えるようにすると……って、悪い忘れて。」

何、アドバイス何ぞしようとしてるんだよ。
そんなん指摘されても、は?って感じだろう。

「下?え、ちょっと教えろよ。」

クイクイッと手招きをされる。
なんでか分からないけど、断りづらい。

仕方がなく靴を脱いで体育館に入る。
その間に物凄い勢いでボールを片づけていくのをみて自然に笑みがこぼれた。

「武藤の持ち方って、こうじゃん。それをもう少し下側から、こう。で、こんな感じで打つ。」

軽く投げると、ボールはリングに向かって飛んでそのまますとんと入った。

「……すげぇ。」
「……。」
「バスケ出来るんだ!!なんで、バスケ部入らないんだよ!?」

興奮したように言われる。
無理な物は無理なのだ。

「飛べないから。」
「は?」

怪訝そうな顔をされる。

「まあ、そんなことはどっちでもいいだろ?」
「いや、良くねーよ。」
「とにかくバスケ部には入りません!!」
「は!? うちの部人数足りてないんだよ、入ろうぜ?」

何故、こんなにフレンドリー?どうしてこうなった。
俺が何も言わないと、ずっと誘い続けている。
一つため息をつく。

「……足、故障してんだよ。」

仕方がなく理由を言った。
笑顔で誘っていた武藤が固まる。

「悪いな。」

中学のチームメイトにも何度も言った言葉を口にする。
何かを言おうとしては辞めるという事を繰り返している目の前の男に

「気にすんな。」

と言ったが、表情は固まったままだった。

「なあ、武藤これで帰るのか?」
「!!ああ、そうだけど。」
「コンビニ寄らねえ?俺腹減った。から揚げでチャラでどうだ?」
「チャラって…。クソッ。分かった行こうか、準備するからちょっと待ってろ。」

やけくそのように言ってから用具を片づけ始めた。

俺はというと特にやることも無いので、靴を履き直して体育館入口の段差の所に座りこんだ。
まあ、これでチャラにしてお終いだろう。そう楽天的に考えていた。

その考えは、数日後、フォーム変更でシュート成功率が上がったという武藤によって完全に崩れさるという事をこの時の俺は知らない。

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