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ここは、まるで、水晶ので出来た森のようだ。
言われなければ、ここが地下だという事を忘れてしまいそうな幻想的な空間が広がり、水晶が仄かな明りに煌めいている。

その空間の中心に彼は居た。
居るという表現はいささか適当ではないかもしれない。

ひと際大きな水晶の中に彼は閉じ込められている。
丁度人一人が入れる大きさの水晶柱の中に彼はもう千年近く閉じ込められているのだ。

結界となっている水晶の前に簡素な身なりをした一人の青年が立った。
それを水晶の中の青年が虚ろな目で見つめた。

「貴方が、この世界の礎となっている、竜王様ですか?」

何の感情も乗らない声で水晶の中に居る青年に話しかけた。
実に100年ぶりに自分以外の誰かに話しかけられた青年の心は本人以外には分からない。

暫くしてから、かすれた声で水晶の青年が答えた。

「……そうだと言ったら?」

それを聞いた青年は黒髪を揺らして満足げにうなずいた後、竜王の周りを丹念に調べ始めた。

「ここから、出してあげますので、僕に協力して欲しいのですが?」

ガリガリの体でコテリと首をかしげるが、あまりにも見た目とミスマッチで全く可愛くもなんともない。

「はっ?!お前ごときにこの結界は破れないだろうさ。それにこんなところに1000年も放置された恨み、分からない訳ではないだろう?」

暗に、ここに自分を封印した事によって、のうのうと生きている人間全体に対してひどい恨みを抱いているという事を口に出しながら竜王は鼻で笑った。
そもそも、竜王自身が破れない結界を破る力が有るのであれば彼の力を借りて何かをする必要性が無い。

「分からないに決まっているでしょう?僕は貴方ではないのだから。」

ポツリと青年が言った言葉を竜王は聞き洩らさなかった。

「仮に、お前がこの結界を解く事が出来たとして、俺の出す条件を呑めるのあれば、協力してやろう。」
「条件?」
「ああ、そうだ。俺がここに閉じ込められてから1000年分の記憶をお前の脳みそに直接送りこむ。それに耐えられれば協力してやろう。」

ニヤリ。そう表現するのがぴったりな表情で竜王は笑った。

孤独、ただ一人でいる事に違い無いが、生き物というのは知能が高くなればなるほど一人では生きていけないものだ。
たとえ一人で生きていくだけの能力があったとしても一人にはなれない。
精神が耐えられないのだ。

1000年、話相手の一人もおらず、見える景色も変わらず。腕一つ碌に動かせない水晶の中に閉じ込められているのだ、その精神的苦痛は計り知れない。

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