僕がその人にあったのは、誰か親の知り合いの誕生日パーティーでのことだった。
「お前の食べてるソレ美味しそうだね。」
最初に話しかけてきたのは多分あちらだった。
僕よりかなり年上で多分高校生、もしかしたらもうあの人は大学生だったのかもしれない。
今日の主役の弟らしい彼は、こんなパーティの主催者の家族のはずなのに取り巻きが誰もいない。
不思議に思って思わず見上げると、丁度チョコレートケーキを皿に盛り終えた彼がこちらを見て困った様に笑った。
それで、子供の僕にでも分かってしまう。
この人はこういう視線を向けられることに慣れてしまっているのだ。
どうしたらいいのか分からず困っていると、あの人は「ケーキ半分食べるかい?」と聞いた。
普通は怒るのかもしれないぶしつけな視線だったのに、はぐらかしてくれたその人に思わず頷いた。
会場の隅に並べてある椅子に並んで座って、皿の上のケーキを一口貰う。
社交の場だというのに僕みたいな子供の相手をしていていいのかも、よく分からなかった。
「こういう場、あんまり来た事ないんだろ?」
その人はそう言った。
頷くと、その人は「俺も正直苦手なんだ。」と呟いた。
「じゃあ、今度別のところでケーキ食べましょう。」
なんでそんな提案を、自分より明らかに年上の人にしてしまったのか、自分でもよく分からなかった。
でも、初めて会ったこの人を一人にしたくないと思ったのだ。
「友達になってもらえませんかっ!?」
自分でも突然何を言っているのかという感じだ。だけど、他の言葉がよく分からなかったのだ。
◆
「勉強っていっても、ちゃんと分かってるじゃん。」
あの人に提案したケーキを別のところで食べようという話は、あの人の家で勉強会という形で実現した。
連絡先を交換して、どうするか話したら結局この形になった。
自分が子供だからだと思った。
勉強するときにしかかけないと言っていた眼鏡をして、あの人はノートに綺麗な字を書いている。
それの意味がほとんど分からない事に年齢差を実感してしまう。
時々なっているスマホは多分トークアプリの通知音だ。
別にパーティで一人でいたからって友達がいない訳無いのだ。
こんな風に僕に勉強を教えてくれる優しい人に友達がいない訳が無いのだ。
「どうしたんだい?」
こちらを見て不思議そうに見ているあの人を見てよく分からない気持ちがわく。
あの人の友達が嫌なのか、それともあの人が誰かに笑顔を向けるのが嫌なのか、自分でもよく分からないのだ。
ただ、どうにもならない気持ちが膨れ上がってどうしようも無かった。
「あなたの特別になりたい。」
思わず出てしまった本音に自分でも驚く。
でも目の前の人の方がもっと驚いた顔をしていた。
それは、子供が訳の分からない事を言っているという驚きと、少し違うように見える。
「大人をからかうものじゃないよ。」
「別にあなただって、大人って訳じゃないでしょう。」
咄嗟にそう返してしまったのは、子供の狡さだろうか。
あの人は、はあと長い溜息をついた後「じゃあ、3年後まだ同じことを言えたらな。」と言って笑った。
了