少し前の理一であったら、その言葉だけで自分自身を投げ打ってしまったかも知れない。
自分の価値がそれなのだと言われたら、喜んで差し出していただろう。
今だって、一総が怒りをあらわにしていなければ立ち止まって考える事さえ出来なかったかも知れない。
だけど、それでも白崎がはにかみながら「うちの妹は世界一可愛いんだぞ。」と言った言葉を思い出す。
理一は彼のことを確認すると、ぐしゃぐしゃに表情をゆがめている。
それを見て理一は決めた。
一総に「かばってくれてありがとう。でもごめんな。」と言う。
最初から分かっていたみたいに一総は「大丈夫か?」と聞いた。
「アイラちゃん。話しを聞こうか。
手伝えるかどうかは分からないけど。」
アイラよりもその兄である白崎の方がホッとした顔をしていた。
◆
「白崎の子は呪いの所為で生まれつき体が弱いんです。」
私も含めて、ですが。とアイラは笑顔を浮かべる。
「彼岸に引かれやすいから、石に守ってもらう必要があるんです。
……だけどそれじゃあ、根本的な解決にならない。」
「それで?」
続きはある程度は分かっている。
石が必要だという部分になる事はもう理一にも察しがついていた。
「本家の中心に石を置いて、そこで子供を育てればその子はもう引かれないですから。」
それにそうやって育てた人の子はもう、大丈夫になる筈なんです。
アイラは言う。
「それはお前の異能で視た未来か?」
一総が聞いた。
理一は口を開かず何かを思案しているようだった。
「はい。そのチャンスを実現する可能性が一番高いこの日を選んで来ました。」
一総が舌打ちをしたが、その意味が理一には分からなかった。
理一にはそれよりも確認しなければならない事があった。
「多分、それに必要な石は細かいものを沢山じゃだめだよね。」
なるべく、優しく聞こえるように心がけながら理一は言った。
「はい。だから貴方に直接お願いしに来ました。」
「出血多量で死にかける寸前まで血を出さないと無理な大きさだろ?」
理一はいつも通り笑ったつもりだった。
ただ、その笑みがあまりにもいつも通り過ぎて白崎がひゅっと息を飲んだ。
「家に相談してから、じゃ駄目なんだろうな。」
「間違いなく貴方は断ってしまいますから。」
それでここに来た。それは分かる。
けれど、彼女は最初に二人に会いに来たと言っていたと理一は聞いていた。
「じゃあ、花島への頼みは?」
アイラは困った様に笑っていた。
今日を彼女が選んだ理由が、それから一総が先ほど舌打ちした理由が分かった気がした。