「兎狩りですよ。」
歌うようにアイラは言う。
一瞬ギクリと体を硬くした理一にアイラは微笑みを浮かべた。
「貴方はまだやっていないですけど、今までの木戸家はそれこそ、ずうっとやってきた事ですし、貴方もこれからやるでしょう?」
「俺は、そんな事はしない。」
「つい、私に手を上げようとした人間の『そんな事はしない』ほど信用できないものはありませんよね。」
それは、その通りだった。何も言い返せない理一は押し黙る。
「うちは、昔から石の対価として、貴方方に殺されるための人員を差し出してきましたけど、本当にうちの人間の命の価値とつりあっていたんでしょうか?」
ゴクリ。理一が唾を飲み込んだ。
「少なくとも、これから貴方が殺すであろう人間の分をきちんと清算するのは貴方自身の義務でしょう?」
「俺は殺さないよ。」
「あら?私の異能では五分五分位に視えますよ。」
それだけの可能性があるのだから、貴方にも関係無いはずがないでしょう?
畳み掛けるようにアイラが言う。
「聞かなくていい。」
一総がはっきりと言う。けれど理一には思い当たる事があった。
「蝶の人の話したっすよね。」
「ああ。あの後調べたよ。
木戸家に関わっていたのは、随分昔の人だった。」
一総が理一に言う。
「そうですか。それも石で見た記憶だったんですがそんなに昔でしたか。」
少々逡巡してから理一は静かにこう付け加えた。
「その人も、九十九、木戸の先祖返りに殺されるためにうちに来たんですよ。」
一息に伝えたが、一総の表情にはまるで変化は無かった。
「知っているよ。」
一総が微笑む。
「結局木戸家に取り入るために人を差し出してただけだろう。
今更、木戸個人に擦り付けるのはお門違いだろうに。」
一総は面倒臭そうにアイラを見た。
「でも、それじゃあうちの子達は大人になれない!」
アイラは半ば叫ぶ様に言った。