「少なくとも今日のところは帰った方がいい。
そもそも、アンタの一族の事は俺たちには関係ないだろ?」
アイラはニコリと笑って「だから、嫌ですと言ったじゃないですか?」と答えた。
「先祖返りがいつでも一族をまとめられる訳じゃないことは“花島”が一番よく知っているはずでしょう?
貴方達の様な屈辱的な扱いを白崎にさせられる訳がないでしょう!?」
「別に、夜伽の仕事が屈辱的だと思った事は無いが?」
「そう思えないこと自体が先祖返りが生まれてこなかった一族が屈辱的な扱いを受けているという証左でしょう?」
理一はその日初めて、怒りに似た暴力的な感情を覚えた。
半ば反射的にアイラを振り払おうとした手を一総に止められる。
契約を結んだ時に、必要が無いと言った意味は確かにあったのだ。
反射的にやってしまったため、手加減はしていなかった。
それでもアイラと理一の間に割って入って軽々と理一の手を受け止めたのだ。
「すみません。」
殴ってしまうつもりは無かった。
雷也に大怪我を負わせてしまって以来、誰に何を言われても理一は手を上げてしまう事は無かった。
「いや。
でも、俺の代わりに苛立つ必要は無い。」
一総が困った様に笑った。
「仮に、屈辱的だったとして、それは少なくとも木戸とは関係ないだろ?」
アイラは初めてふわりと年相応の笑みを浮かべた。
最初からこの瞬間を、ただひたすら待っていたのかも知れない。
「関係はあります。」
まるで歌うようにアイラは答えた。