「なんなんすか、これ。」
「ああ、ちょっと家の方でな。」
一総が溜息交じりで答える。
「やっぱりアンタの家って暗殺集団なんすね。」
「いや、これは雇ったやつらだろうな。」
窓から離れながら二人で話す。
「雇ったって何言ってるんすか?」
「俺が当主になったことを気に入らないやつらの差し金だろう。」
簡単に言ってのけた一総の言葉に理一は思わず玄関に向けていた視線を一総に向けた。
「当主になったんすか?」
「ああ。なんだかんだで力は必要だし、それに一般的には先祖返りが一族を率いることが多いだろう?」
「そりゃあそうですけど。」
事実ではなあるが何も学生の内からやる必要のあることとは理一には思えなかった。
「それで、ご当主様が若輩すぎて気に入らない人間に襲われていれば意味ないでしょう。」
「そうか?こんなもので俺が殺せると向こうさんも思ってはいないだろう。
嫌がらせみたいなもんだ。」
だからこそ、早く木戸を帰してやりたかったんだが読み違えた。申し訳なさそうに言われて今度は理一が溜息をついた。
「……殺さないように注意しますけど、攻撃に夢中になっていたらそれで止めてください。」
理一が一総の胸に指を当てながら言う。
「ちょっと待て、態々木戸が頑張る事ないだろ。」
一総が一人で何とか出来るであろうことはここのところの事でよく分かっている。
極端な話全員を洗脳してしまえばそれで終わりなのだ。
それでも、じっとこの人がこの扉の向こうにいるであろう人間と対峙する様を理一は見たく無かった。
「御仁が付いているっていう方が今後の襲撃も少なくなるっすよ。」
「……そういう事じゃない。」
一総は自分の手で目を押さえると、それから声を潜めて言う。
「無理はしなくていい。」
「分かりました。普段誰かと手合わせすることほとんど無いので加減を間違えたら済みません。」
殺してしまうことが駄目なことはまだ今の段階では理解できている。
実際戦い始めたら分からないという恐怖はあった。
けれど、だけれど……。
「終わったら、アンタの家の事説明してくれませんか?」
殆どアンタの事何も知らない。理一がそう言うと一総は理一の頭を一瞬ぐしゃぐしゃと撫でた。