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理一は一総に何も聞けなかったし言えなかった。
一総は気が付いているのかもしれないが、その事には一切触れない。

暗示をかけた事についてすら何も話さないし、話せない。
まるで何事も無かったかのようだった。

ただ、違うのはあの日から一総と理一はセックスをしていないという事だ。

その代わり、二人で時々食事をする様になった。
元々友達でも何でもなかったのだけれど、理一にとって居心地は悪くない。

その居心地が悪くないという状況も一総の気遣いで成り立っている事にもう気が付けない程馬鹿ではいられなくなってしまった。

「これ美味いっすね。」

一総のお手製だというビーフシチューを口に運びながら理一は言う。
頼り切っていた時の記憶があるので、何かをしてもらう事に躊躇が無い訳では無い。

確かにあの時幸せは感じてしまっていたのだ。

「だろ。やっぱりいい肉使うと違うよな。」

まるで昔からの友達みたいに一総が返す。

理一が一総の思い通りにならなくて切り捨てられたのかとも思った。
けれど、一総をよく観察しているとこんな風に食事をする様な親しい人間は理一以外いないのだ。

本気で切り捨てるつもりならもうとっくに話しかけることすらできなくなっているだろう。

食事を終えていつもなら宿題を見てやるかなんて言われるのに、一総は申し訳なさそうに「今日はこれで帰ってもらえるか?」と言う。

仕事でもあるのだろうか。
ここで誰かとこれからセックスでもするのだろうか。

仕事をやめたいと言っていたからそんな事は無いと思うのに、理一はついそんな事を考えてしまっていた。
まるで嫉妬の様では無いか。そこで理一は考えることを止めた。

「ッチ。」

一総が突然舌打ちをした。
次の瞬間、何故一総が舌打ちをしたのかが理一にも分かった。

招かれざる客人が一総の部屋のドアの前、それから窓の外にいるのが気配で分かった。

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