一総が目を覚ます。理一が「おはよう。」と声をかけると一総は開いた目を再び細める。
「やっぱり効きづらいな。
だけどここまでとは。」
溜息交じりで一総に言われる。
「なんでこんな事したんすか?」
理一は一総に聞いた。
今、術の影響がどのくらい残っているのかよりもそちらの方が気になった。
一総は起き上がると妖艶に笑った。
それはまるで初めてであった時の様で、理一は自分でも理解できない苛立ちが胸中に募る。
苛立つのは苦手だ。
何もかもをぶち壊したくなってしまうから、いつでも穏やかでいたかった。
それは今も変わらないけれど、いま感じている苛立ちはいつものそれとは違う。
叫び出したい様な、泣いてしまいたいようなそんな苛立ちだった。
「だって、今の生活が木戸が望んでいたものだろう。」
一総に言われ、理一はガツンと頭を殴られた様な気分になった。
けれど、言い返せなかった。
図星をさされたようなものだ。そんなもの望んでいなかったと言えばうそになる。
しかし、こんな方法で実現したくも無かったことは事実だ。
「だからって、無断でやっていいことと悪い事とあるっすよね。」
「話せばただでさえ効きづらい術が効かなくなるだろ。」
一総は残念だったなあと言って、ニヤリと笑う。
その笑みが本心から出たものではない気がして理一は眉をひそめる。
「じゃあ、完全に術を解いてくださいよ。」
苛立ちをぶつける様に理一は言う。
「もう、既に完全に解けてるだろ?」
一総は、どこかおかしいところでもあるか?と尋ねた。
「それは……。」
理一は到底答えることができなかった。
逡巡した後、「解けてるならいいっす。」とだけ伝えた。
理一が考えた事に気が付いているのかもしれないが、一総は何も言わなかったし、契約を持ちだす事も無かった。