※繋がる指先未来軸
あの人が大学を卒業する年に同棲を始めてからもう10年の年月が過ぎ去った。その間に俺も就職をしてあの人の会社も軌道にのって色々あった。
就職したての頃は忙しくて碌に顔も合わせられなかった時期もあったし、あの人が海外出張でしばらく日本にいなかった事もあった。
それでも喧嘩をしたり甘え合ったりしながらここまでこれた。
変わった事変わらなかった事、それぞれ色々ある。
相変わらず俺とあの人を繋ぐ糸は無理矢理補修したように歪に繋がっていたけれど、もうそれを見るのも当たり前になっている。
逆に、学生の頃あったあの人の恋人であることの負い目の様なものはもうほとんど無いし、あの人が時々見せる余裕の無い姿は最近はもうほどんど見ない。
それを寂しいとは思ってはいない。
穏やかに二人の時間が過ぎている日々はとても大切で、とても幸せだ。
◆
土曜日だった。雲一つない晴天でいつもより沢山洗濯物を干した。
ベランダに干したそれを、夕方二人で取り込んで、並んで畳む。
毎週末の日課の様になっていて、もう二人で暮らすというのが当たり前になっている気がする。
丁度あの人のTシャツを畳んでいる時だった。
いつも通りの穏やかな時間だったし、その前に話していたことも他愛のないことだった。
「ねえ、結婚しようか。」
特に前置きも無く、いつもと変わらない口調であの人は言った。
驚きで思わず持っていた洗濯物を落としてしまう。
「折角畳んだのに。」
あの人は貸してと言って呆然としている俺から洗濯物を受け取ると、綺麗に畳み直す。
「なんでそんな急に。……それに男同士って結婚できないの知らない訳じゃないですよね。」
はいと言えず、思わずそんな事を返してしまう。
「まあ、法律的にはいくらでも方法があるし、それにああ今だって思っちゃったんだよね。」
あの人は相変わらず洗濯物を畳みながらそんな事を言う。
「なんかね。ずっと俊介とこうして生きてきたいなって思ったから、つい口からでちゃってって、俊介?!」
ちょっと泣かないでよ。とあの人に言われてようやく自分が涙を流してることに気が付く。
「あれ?」
頬に触れるとはらはらと流れ涙が濡れていて目の前であの人が慌てている。
「こんなところでプロポーズとかやっぱり嫌だったか?もう一度、ちゃんとやり直すから。」
あの人に言われて思わず抱き着く。
「やり直さなくていいです。今ちゃんと返事をさせて下さい。」
あの人の体温を感じながら呼吸を整える。
「俺も、大地さんと結婚したいです。」
返事なんて一つしかないのだ。
多分それは俺自身よく分かっているし、あの人も同じだろう。
「あー、良かった。」
それなのに耳元で心底安心した声が聞こえて、思わず声を出さずに笑ってしまった。
「俺が断るはずが無いじゃないですか。」
「まあ、そりゃあそうだけどさ。」
それからあの人は、もう何も言わず涙で濡れてしまった目元に唇を落とした。
思わず目をつぶるとあの人が吐息だけで笑ってそれから俺の唇に触れるだけのキスをした。
それはまるで誓いの様だと思った。
了
お題:2人が社会人になってからの10年後